“キャリアの自律“が求められる「VUCA」の時代とは?
今回、「lotsful magazine」では、瀬川秀樹氏による漫画コラムをお届けします(合計3回を予定)。瀬川氏は大手企業に32年勤務して米国での事業立ち上げなどを経験したのち、独立。現在は、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立し、「越境リーダーシップ」プロジェクトパートナーや「NEDO」などでメンター・ゲストスピーカーを務めるなど、多方面で活躍しています。
瀬川氏の様々な経験をふまえた漫画コラムから、副業などを含めた多様な働き方に向き合う「キャリア観」を感じ取ってください。第1回目は、マクロな視点で捉える時代の潮流とキャリアの考え方についてのコラムです。
VUCAの時代に合わない「線路」
Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとって、VUCAの時代と言われています。変動して不確実で複雑で曖昧。目まぐるしく変化する予測困難な時代。
当たり前ですが、世の中は昔から「変化し予測困難」です。たまたま「高度成長期」とか「失われた20年(30年?)」とか、ある意味「安定した」長い時代が最近あったから、あたかも今が「VUCAだ!」みたいなことを言う人がいるだけです。安定したと思える時代だって、大きな自然災害があったり、経済の大変動があったりしていますが、「喉もと過ぎれば」で忘れているだけです。
その「安定した」と勘違いした感覚を捨てられない大会社の多くの方々が、無意識に固執してしまうのが「キャリア信奉」です。そのイメージは「引かれた線路」。
ある年齢までにどういう役職になって、どういう給料をもらって、家族構成はこんな感じで、持ち家はこの年齢のころに持って……というような、人生・社会人のマイルストーンが書かれた『線路』です。ちょっとスゴロクに似ていますね。仕事の「線路」では、「どういう仕事をどこでやってどういう結果を出せば」そのマイルストーンをクリアできるかも表示されているイメージを持っているのではないでしょうか。
元々、「キャリア」の語源は「轍(わだち)」のこと。つまり、過去の軌跡です。「これまでやってきたこと」がキャリアで、「そのキャリアを持っていれば、この仕事はできそうだな」と、新しい役職や転職の時に使われるものでした。それが拡大解釈されて、未来にどのような仕事をするかという「未来の計画」を「キャリアプラン(計画)」と称して使われるようになりました。
自分のキャリアをどうしていこうと考えるのは決して悪いことではありません。しかし、「未来が変化し予測困難なVUCAの時代」に過去の安定した時代の人が書いてきた「線路」を自分の計画としてそのまま受け入れる(信じる)のは意味がないことは明白でしょう。
VUCAの時代の「魅力あるキャリア」
アナタを採用したり、新たな役職に任命する側にとって「アナタのキャリア」は、「この人にこの仕事はできるか?」という判断をするための材料なので、「これからの計画」ではなく「これまでやってきたこと」が重要視されます。
安定した時代では、仕事の内容もそれほど変わらないので、「この仕事にはこういうことをやってきた人がいい」という「こういうこと」というのが具体的に表現できるものでした。
ところが、VUCAの時代では、具体的な「こういうこと」が挙げにくいのです。なんせVUCAの時代ですから、「これからの仕事」も「変化し予測困難」だからです。そうすると、「魅力があるキャリア」も変わってきます。具体的な「XXの営業」や「YYの開発」や「ZZの経理」などではなく、「変化し予測困難」なことが起きても「なんとかしてくれそうな人」に魅力を感じるようになります。つまり、「変化し予測困難な世界の仕事」を乗り越えてきたかどうかということが「魅力あるキャリア」につながります。
軸を堅持し前向きに足掻けば
最近、注目を集めている「リスキリング」も「変化した世界」に対応するための新たなスキルを身に着けることですが、残念ながらどちらかというと、「会社視点で不足している人材の補充」的な感じが強く、「変化し予測困難な世界の仕事を自ら乗り越える力」には直結しにくい。
具体的なスキルを身に着けるだけでは足りないのです。書かれた線路に具体的なマイルストーンを置くのではなく、「抽象度が高い『自分の方向性』」を堅持し、そちらに前向きに足掻きながら歩いていき、その結果が「過去の軌跡」として記されるようにしないと「魅力あるキャリア」はできにくいのです。
「抽象度が高い『自分の方向性』」は、言ってみればアナタの人生で大事にしたいことです。「他人が書いた線路」に振り回されると、大事にしたいことが失われます。「大事にしたいこと」は人それぞれなので、一度ノートにパラパラと書き出してみるのをオススメします。
参考にはならないかもしれませんが、私の「大事にしたいこと」は、
・魅力ある人と一緒に
・人の人生をポジティブに変える
・オモロイことを思いついて作品や仕事に活かす
・新しい何かを創り出す
……等々です。
「抽象度が高い『自分の方向性』」を揺らぎない軸として、目のまえに現れる様々なチャンスや変化や危機に、自ら前向きに取り込み、乗り越えていけば、気がつくと自分の後ろに轍ができていて、それはとても魅力があるキャリアになることでしょう。仕事がガラッと変わることも、「越境学習」として前向きにとらえれば、新たな轍を刻むいいチャンスです。
漫画・コラム/瀬川 秀樹
元リコー研究開発本部・未来技術総合研究センター所長。
光ディスクの技術者、 光ディスク国際標準化委員会の日本代表団メンバーなどを経て、米国シリコンバレーにてベンチャーへの直接投資(CVC)や、新規事業の提案/立ち上げ/撤退に従事。 その後、リコーで技術戦略室長、新規事業開発センター副所長、未来技術総合研究センター所長などを歴任。インド農村部でのBOPプロジェクトも興し、リーダーを務めた。2014年9月に退職し、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。「越境リーダーシップ」のプロジェクトパートナーや、新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務める一方で、4コマ漫画作家としても活動中(「オープンイノベーションあるある4コマ漫画コラム」など)。