副業に関する制度や保険とは? -副業・兼業の促進に関するガイドライン解説
政府が働き方改革の一環として副業・兼業を推進し、その結果、さまざまな企業で副業・兼業が浸透しています。そうした中、副業・兼業を開始することにより、保険の申請などが別途必要となる人も出てきました。そこで本記事では、保険に関する副業・兼業の制度やルールを、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(※)などをもとに紹介します。
※「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、安心して副業・兼業を行えるように、厚生労働省が作成したガイドライン。(平成30年1月策定、令和4年7月改定)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
副業・兼業に関わる制度
前回の解説記事「副業社員の労働時間や健康管理のポイントは? -副業・兼業の促進に関するガイドライン解説」では、副業社員の労働時間や健康管理のポイントを紹介しました。今回は、副業・兼業に関わる社会保険について解説していきます。
副業・兼業を開始しようと思い、企業が定める副業・兼業のルールをチェックしていても、保険のことまではなかなか考えが及ばないのではないでしょうか?
そこで会社員と関わりの深い社会保険の中から、労災保険、雇用保険、厚生年金保険、健康保険について紹介していきます。
各種保険
労災保険
2020年9月に行われた労働者災害補償保険の制度改正により、副業・兼業を行なっている社員への労災給付額が、本業・副業の収入を合算した額を基礎として算定されるようになりました。
つまり、本業の収入35万円、副業の収入15万円の場合、副業中に被災したとしても、月収50万円分で労災の給付額を算出することになります。
なお、本業・副業ともに企業に雇用されている場合は、労災保険に加入できます。
しかし、フリーランスや自営業は対象外となります。そのため、副業・兼業がフリーランスや自営業の人は、副業・兼業に関わる労災保険がおりません。
しかし、特別加入によってフリーランスや自営業も労災保険に入ることができます。
特別枠の対象は、中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者の4種となります。
雇用保険
副業・兼業であっても、下記A・Bの条件を満たすと雇用保険の加入義務があります。
A.31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること
B.1週間の所定労働時間が20時間以上であること
なお、雇用保険に加入できるのは、雇用契約を結んでいる企業の中で、最も収入の高い1社だけとなります。そのため、ほとんどの場合、本業の企業で雇用保険に加入することになります。
副業・兼業を行なっている社員から、雇用保険に関する質問を受けたとしても、上記のルールを伝えればほぼ問題ありません。
厚生年金保険と健康保険
厚生年金保険と健康保険は、副業・兼業であっても条件を満たせば加入する必要があります。
加入対象は下記のAあるいはBの条件を満たした場合です。
A.1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上
B.以下の要件をすべて満たす人
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
なお、加入対象者であるのに手続きをしないと、罰則を受ける可能性があります。
それらを避けるため、対象者は本業の企業を管轄する年金事務所で、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しなければなりません。提出すると、本業と副業・兼業の給与を合計した保険料が計算され、給与から引かれるようになります。
よくある質問
副業・兼業を行なっている社員に対して、企業がどのような対応をとるべきなのでしょうか?
労働法務の専門家である荒井太一弁護士の監修のもと、多くの企業から寄せられる質問とその回答を紹介します。
荒井太一 氏
日本およびNY州弁護士。森・濱田松本法律事務所パートナー。2015-2016年厚生労働省労働基準局勤務を経て同事務所復帰。ビジネス法務全般・労働法のほか、ベンチャー支援を主要業務とする。2017年、テレワークや副業の促進のための課題を検討する厚生労働省「柔軟な働き方に関する検討会」委員に就任。著書も多数出版している。
質問1 『労災保険の給付について。たとえば、職場における新型コロナウイルスの罹患など、自社か副業・兼業先か特定が難しい場合の労災保険の扱いはどうなりますか?また、その他の病気やうつ病といった場合は?』
回答
職場でのコロナ罹患の立証は難しいので、労災はなかなか認められないのではないでしょうか。
長時間労働において病気やうつ病になった場合は、労働時間の通算が関わってきます。
本業と副業・兼業のどちらも週40時間残業したとしても、本業だけを見れば過重労働に当たりません。しかし、副業・兼業で通算すると残業時間が80時間になってしまいます。この場合、合計すると長時間労働があったとされ、疾病との業務起因性が認められ、労災が認められることはあり得ると言えます。
ただし、これはあくまでも労災保険上の取り扱いとなり、民事上の責任としては本業と副業のいずれも責任を負わないといったこともあり得ます。
質問2 『労災保険の給付について。従業員が複数の副業・兼業先で働いていた場合、労災保険の給付額についてどのように考えればよいでしょうか?』
回答
本業で怪我をしても、副業で怪我をしても、本業・副業の収入を合算した額で、労災保険の給付を行います。また、先ほども述べたように、必ずしもいずれかの業務が原因かについて特定されなくても労災保険が給付されることはあり得ます。
質問3 『従業員が、自社と副業・兼業先の二社で、二重に雇用保険に加入していたことが分かった場合の対応方法は?』
回答
雇用保険は二重で加入することはできないことになっていますので、そういった事態は生じないように思います。
まとめ
副業・兼業の保険に関するルールを解説していきました。
条件を満たしている場合は、年金事務所での申請が必要となりますので注意が必要となります。各種保険ごとに条件も変わりますので、内容をしっかりと確認をしておくことが必要です。
また、労災においては、本業と副業・兼業の収入を合算して給付額を計算されますので、そうした部分も注意が必要でしょう。
第1回目の解説記事は下記からご覧ください。