【セミナーレポート】100名以上が応募した大田区商店街のDX推進プロジェクト!自治体×副業人材活用の舞台裏
商店街の組織運営に関わる業務は、アナログかつ属人化しているケースが珍しくありません。近年のコロナ禍の影響により、役員や会員同士が集まる機会が減り、従来通りの運営が難しい状況になっています。こうした課題が表面化している中、都内最多の140もの商店街がある大田区では、商店街運営に関わる業務の効率化・DX化を推進。そのプロジェクトを2名の副業人材に任せることにしたのです。
そこで、本プロジェクトを支援したlotsfulでは、「自治体×デジタル人材活用〜副業人材とのDX推進・業務改善の裏側〜」と題したオンラインセミナーを開催。副業人材にプロジェクトを任せた背景から、どのようにして業務効率化・DX化に向けて作業を進めていったのか、さらに、どんな成果が生まれたのかについて、プロジェクトの中心メンバーであった大田区の吉原瑞恵氏、大田区商店街連合会の河野玄氏に話を聞きました。
――本記事では、様々な意見が交わされたセミナーの模様をダイジェストでお届けします。
※関連記事:【自治体×副業人材】大田区商店街のDX推進!デジタルツール導入による、業務効率化に向けた副業活用
副業人材への業務の切り出し方とは?
田中
本セミナーでは、大田区の商店街における業務効率化・DX化プロジェクトの副業人材活用について、お話をうかがっていきます。はじめに、商店街にはどのような課題点があったのかを教えてください。
吉原氏
以前、商店街が抱える問題点をヒアリングしたところ、集金や帳簿付け、決算など、日常的に発生する業務に負担を感じていることがわかりました。また、それらの業務は属人化されており、管理方法は紙で、デジタルツールの活用が進んでいませんでした。商店街の持続的な発展モデルを作り上げていくためには、DX化による業務効率化が必要不可欠だということが見えてきたのです。
田中
そこから、どのような経緯で副業人材の活用を決めましたか?
吉原氏
大田区では以前から商店街の支援を区の担当者だけでなく、専門性を持った外部人材の力を借りながら進めていくスキームを構築していました。しかし、限りある予算の中で、そうした外部人材の活用が単発で終わっていたのです。これでは本当の支援にはならないと考え、予算の中で継続的にサポートできる方法を模索しました。そうした中で、任せたい業務を切り出し、小さな規模で依頼ができる副業人材の活用が、私たちの求める条件と合致したのです。
田中
機動力を持って、課題をクイックに解決するなら、副業人材の活用は親和性が高いですね。
河野氏
今回のプロジェクトでは、対応いただく外部人材に”柔軟性”を求めていました。2021年7月から11月までという短期間で、アジャイル的に進めていく形でしたので、柔軟に伴走できる方にお任せしたいなと。それが副業人材なら実現できるのではと思っていました。
田中
副業人材に業務を任せるにあたり、どのような準備をしましたか?
河野氏
まずは、お任せしたいタスクを切り出すことから始めました。商店街の課題を抽出するために事務作業を60項目にまとめ、それらをヒアリングし、結果を棚卸表としてデータ化したのです。データは副業人材に共有し、分析と業務効率化の支援施策を検討してもらいました。
田中
商店街へのヒアリングは自分たちで行い、データの分析と支援施策の検討は副業人材に任せたのですね。
河野氏
副業人材は月20時間程の稼働です。なおかつ短期間のプロジェクトでしたので、ヒアリングからお願いすると商店街との関係構築で終わってしまいます。そのため、自分たちでどこまで動き、どこから任せるのかを精査しました。ここは副業人材を活用するために、特に気をつけたポイントですね。
田中
自分たちでやるべきこと、副業人材に任せることを切り分けた方がワークすると。その他、プロジェクトを進めるにあたり、注意した点はありますか。
河野氏
商店街が抱える課題をすべてデジタル化によって、解決するのは不可能です。そのため、デジタル化によって業務の効率化が図れるものだけに、注力してもらいました。今後もアナログで行う業務については、効率化の検討からは外しました。
田中
今振り返ってみて、「これはやっておけばよかった」と思うことはありますか。
河野氏
私たちが行った商店街へのヒアリングに関しては、もっと早く終わらせておけばよかったと思っています。副業人材2名のキャッチアップが早く、データ分析に対応できる準備が想定よりもスピーディーに整いました。ですので、ヒアリングを早々に終わらせておけば、すぐに分析に取りかかることができたかなと。
100名を超える応募の中から、2名の副業人材を採用
田中
今回のプロジェクトには、2名の副業人材がジョインしました。100名以上の応募があった中で、この2名に決めた理由は?
吉原氏
大田区にとって副業人材の活用は初めてでしたので、lotsfulさんから人材の選考に関する説明を受けても、正直はじめはピンとこない部分もありました。そのような中で、まずは「商店街の課題解決に取り組みたい」という思いの強さに比重を置いて、選考を進めることにしました。大田区や商店街のことを、ご自身のイメージで少しでも語れる方を中心に選考したのです。また、プロジェクトのスケジュールがきっちりと決められていたので、集中して取り組んでいただく期間があることをお伝えし、そこにコミットできるかも重要視しました。
河野氏
DX化による業務効率化を目指していましたので、その領域に関するスキルセット、ITの知識も判断材料としました。多くの優秀な方に応募いただけましたので、採用する2名の副業人材において、どういった組み合わせが一番効果的かも検討しました。
田中
副業人材同士の組み合わせも重要ですね。2名を決めた後は、どのようにプロジェクトを進めていきましたか。
河野氏
最初のミーティングの際に、大田区に対してプロジェクトの中間報告と最終報告を実施するといった、大まかなスケジュールとゴールイメージを共有しました。細かい部分に関しては、週次のミーティングですり合わせていきましたね。
100以上の商店街に対して、業務に関する60項目のヒアリングを行いましたので、6000以上のローデータが集まりました。それらを分析しながら、業務効率化につながる工数課題を抽出していったのです。しかし、途中から“やるべきなのに、できていないタスク”という管理リスクも見えてきました。そこで、「工数課題」と「管理リスク」の2軸から分析を進めてもらうことにしました。
田中
分析などについては、副業人材にどんどん進めてもらっていったと。
河野氏
最初に対応いただいた「情報のキャッチアップ」のフェーズでは、Slackでやり取りをし、それでも解決しなければZoomで会話するなど、コミュニケーションの頻度を多くとるようにしました。1ヶ月半ほどが経過してからは、週次のミーティングだけで問題なく進むようになっていきましたね。
進めていく上で意識したこと、押さえるべきポイント
田中
プロジェクトを進めていく中で、意識されたポイントはありますか?
河野氏
正確な情報を共有しないとアウトプットの精度が下がってしまうので、その部分は意識しながら進めていきました。すべてのコミュニケーションはオンライン上で行い、プロジェクト期間中はリアルでお会いすることはありませんでしたが、チームとしての人間関係も大切にしましたね。
たとえば、業務のスケジュールなども、副業人材にあわせられるように柔軟に対応しました。実は、1名の副業人材の結婚式とプロジェクトの時期がかぶっていたんです。そこで、式を行う週はミーティングを中止しました。それぞれのプライベートも尊重しながら、関係性も構築していきました。
田中
外部の人材であっても、チームの一員として関わっていくと。情報共有もしっかり行っていたというお話もありましたが、情報が外に漏れてしまう心配などはありませんでしたか。
河野氏
個人情報の共有はなかったので、その部分では安心だとは思っていました。大田区としてはどのように考えていたか気になるので、聞いてみたいですね。吉原さんはいかがでしたか?
吉原氏
ある程度の情報は出さなければ分析はできませんので、判断が難しい部分ではありました。大田区としては個人・機密情報に関わらない範囲で、各商店街から聞き取った業務改善に必要な情報だけを共有するようにしました。区民の情報は絶対に出さないということだったので、その部分は守りつつ対応していましたね。
田中
プロジェクトを進めるにあたり、苦労した点などはありましたか?
河野氏
苦労したことは、ほとんどありませんでしたね。先ほどもお話に出ましたが、副業人材を募集した際に、応募が100名を超えたので選考方法は悩みました。また、2名の副業人材の組み合わせも考えて、ミスマッチをどう防ぐかは気を配りました。この部分はlotsfulさんにも相談に乗ってもらいました。
田中
どんな副業人材をアサインするかは、かなり悩まれたと。
河野氏
短期間のプロジェクトですので、副業人材を途中で交代することは難しい。ミスマッチしたら、プロジェクトにも影響が出てしまうためリスクも大きいと思っていましたが、人選に関しても、lotsfulさんにコーディネートいただけたので助かりましたね。
これからの副業人材の仕方
田中
プロジェクトでは、どのような成果を実感していますか。また、今後の副業人材の活用を含めた計画を教えてください。
吉原氏
商店街の支援に副業人材を活用するのは初めてでしたが、手応えもあり、これからの可能性が広がったと思っています。今回のプロジェクトは、商店街運営業務の業務効率化・DX化に関わるデータ分析でしたが、商店街にはPRやイベントといった領域にも課題があります。そうした課題解決にも、副業人材を活用できないか検討していきます。また、商店街の支援の輪が、副業人材という外部にまで広がったことも、今回のプロジェクトの成果だと思っています。
河野氏
副業人材には、商店街の運営業務において何に工数がかかるのか、どこから効率化をするべきか、さらにDX化に向けて導入するツールはどれにするかまで提案してもらいました。今後は中長期な視点で優先順位をつけ、DX化による業務効率化・標準化を進めていきたいと思っています。
田中
今期のプロジェクトも無事に終了し、安心しています。引き続き、一緒に取り組みを発展させていけたらと思います。本日はありがとうございました!
(編集・取材・文:眞田幸剛)
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