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【セミナーレポート】11億円を調達したSaaSスタートアップ「カミナシ」。急成長を支える独自の採用手法の秘密に迫る。

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スタートアップにとって人材獲得は大きな課題の一つです。特に初期のコアメンバーは自社の礎であり、企業の力そのものと言えます。しかし、どうしても知名度に欠け、有力なプロダクトを持っていたとしても、人材の確保は必ずしも容易とは言えないのが現実です。スタートアップにとってどのような施策が有効なのでしょうか?

lotsfulでは2021年5月12日に、「11億円調達!SaaSスタートアップ『カミナシ』の人材獲得戦略」と題し、オンラインセミナーを開催しました。カミナシは「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」をミッションに、現場管理業務のデジタル化から改善までをサポートするプラットフォームを提供。2020年は社員数を約3倍に拡大し、2021年3月には、表題にある通り、シリーズAで総額約11億円の資金調達を実現しています。

セミナーでは、同社執行役員COOの河内佑介氏から、今すぐにでも応用可能な採用広報や副業人材のオンボーディングなどについて、具体的手法が紹介されました。lotsful代表の田中みどりがモデレーターを務めたトークセッションの模様をレポートします。

【ゲストスピーカー】
株式会社カミナシ 執行役員COO 河内 佑介氏 

株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に新卒入社後、人事や営業、プロダクトマネージャーを経て、テクノロジー領域グループ会社の事業責任者として複数サービスを統括。2019年7月、カヤックLiving(現・株式会社カヤック)に入社し、プロダクトマネージャーおよびプロダクト開発、開発組織の責任者を担当する。2020年4月より副業としてカミナシに携わり、同年7月に正式参画。PMM、事業責任者としてカミナシの事業戦略策定や組織開発を推進し、2021年3月に執行役員COOに就任。

【モデレーター】
lotsful代表 田中みどり

2012年新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。 IT・インターネット業界の転職支援領域における法人営業に従事。2016年10月より新規事業であるオープンイノベーションプラットフォームeiicon(現:AUBA)の立ち上げを行う。Consulting・Salesグループの責任者として従事し、 サービス企画、営業、マーケティング、イベント企画、経営管理などを幅広く担当。2019年6月より副業マッチングサービス「lotsful」をローンチ、代表を務める。

エージェント経由なし。採用はすべて自社で行い、有名SaaS企業出身者を獲得

田中

早速、カミナシさんの規模拡大の軌跡を追いたいと思います。どのような変遷を遂げたか、ご紹介ください。

河内氏

創業当時、当社は現在の「カミナシ」とは異なるビジネスモデルの事業を行っており、2019年末にピボットを決断しました。私は2020年4月から副業で携わり、7月に正式入社。そのころは社員9名でしたが、2021年5月現在で正社員25名、入社予定を含めると30名規模になっています。わずか10カ月で約3倍に拡大しました。

田中

河内さんの正式入社後の2020年7月に採用活動をスタートさせたと伺っています。人事はどのような体制でしたか。

河内氏

専任の人事はいませんでした。求人票やATS(採用管理システム)もなく、ゼロから体制を作り上げました。すべて自社採用で、今のところ人材エージェントの力は借りずにすんでいます。

田中

それでも、SaaS経験者、それもCxO・事業責任者クラスの方を多く採用していらっしゃいますね。

河内氏

コアメンバーとなる最初の50人は厳選したいという思いが強くありました。SaaSで実績のある人をどうしても採用したかった。というのも、その50人の質は、後の人材の質に大きな影響を及ぼすからです。歯を食いしばってでも良い人材を採用しようと、社員みんなの合意を取って採用を続けました。

SNSの活用と、「採用ウィッシュリスト」の作成

田中

スタートアップは知名度も実績も十分とは言えないため、良い人材を採用するのは簡単ではありません。具体的にはどのような施策を実行したのでしょうか?

河内氏

まずは候補者に当社のことを知ってもらう必要があります。このため、noteとはてなブログを活用しました。最初はほとんど反応がなかったのですが、プロダクトの正式ローンチに合わせて出稿した、代表の諸岡のnote記事が転機となりました。スタートアップ界隈を中心にバズり、反響も多かったです。ただ、バズは偶然に起こったのではありません。出稿の2~3日前から、どうすれば読んでもらえるか、自社ブランディングにつなげるために何をどう表現すべきかを徹底的に精査しました。

田中

戦略的にバズを起こすために、「プロダクトの正式ローンチ」という絶好のタイミングを活かした、ということですね。

河内氏

その通りです。候補者からはSNSを見て応募したという声も聞かれるようになりました。周知に一定の効果を果たせているとの実感を得て、経営陣を中心にnoteのブログ記事を短期間で数多く公開しました。はてなブログとnoteを合わせると月に10本近く出稿しています。

田中

すごいですね!本数に対する目標はあるんですか?

河内氏

ありません。当社は「全開オープン」という、社内外に情報をオープンにするバリューがあります。失敗談や課題を外に出していいので、書くネタには困りません。たくさん出すことで1記事を出すハードルも下がり、記事を書きやすい風土ができているのだと思います。たくさん出せば、少しくらいイイネがつかなくても気にならないです(笑)。

田中

なるほど!

河内氏

今では、社員の記事をはじめ、イベントレポートやプレスリリース、外部メディアの取材などで、話題が非常に豊富になりました。これだけあると、当社のファンでもすべてを追いかけるのは困難です。そこで、新しく加入いただいた広報担当の発案で「月刊カミナシ」という記事を始めることにしました。当社の1カ月の出来事がダイジェストで確認できるようなっています。
取り組みやすい施策なので、ぜひ応用してみてください。

田中

他にはどのような施策を行っていますか。

河内氏

採用ウィッシュリスト」を作っています。

田中

それはどんなものですか?

河内氏

 タスク管理ツールの「Trello(トレロ)」に会社の課題や実現したいことを職種領域ごとに記述して社外に公開します。言ってみれば、新しい人材に期待することですね。優秀な方ほど、そうした課題を見て自分の力で何とかしよう、チャレンジしてみようと思ってくれるものです。良質な課題は優秀な候補者を引き付けるのだと実感しています。

副業入社者向けのガイドラインを設ける

田中

副業人材の活用についても教えてください。プロダクト正式ローンチ後から副業人材が増え始め、lotsfulからの第一号の方から2021年5月現在では14人いらっしゃいます。

河内氏

当社が副業人材に求めるのは主に2つのことです。一つは当社にはない高い専門性、もう一つは副業を通じての優秀な人材の採用です。いずれの場合も、有効なオンボーディングのためにガイドラインを作成しました。副業人材に期待すること、定期的なコミュニケーション実施の取り決め、コミュニケーション窓口になる方の指針などが書かれています。当社のnoteで公開しているので、興味ある方はぜひ見てください。

田中

副業の方向けのガイドラインを作っていらっしゃる企業さんは初めて聞きました。

河内氏

実際、珍しいと思います。インターネットなどで調べると、正社員向けオンボーディングはいくらでも出てきますが、副業人材に関してはまったくと言っていいほどありません。副業の方たちには大変好評で、エンゲージメントは確実に向上したと感じています。

田中

組織の仲間として受け入れていることが伝わるので、とても前向きに働けますね。

河内氏

副業入社者にもしっかりと会社との関りを持ってほしいので、1on1で振り返りをしたり、現職の状況をヒアリングしたりしています。また、1.5カ月ごとに副業入社者全員に集まってもらって、当社の最新の取り組みや目指していることを説明しています。

田中

副業の方とは知らず知らずのうちに距離感が生じることが多くあります。カミナシさんの手法を用いるのはとても有効だと感じます。

河内氏

おかげさまで、副業を経由して4~5人が社員として入社しており、採用観点でも非常に良い結果がもたらされています。

人材採用にBtoBマーケティングの発想を応用

田中

カミナシさんはシリーズAの資金調達の段階で大々的にPR活動を行っていらっしゃいましたね。

河内氏

認知が広まりやすいタイミングですので、キービジュアルの作成やプレスリリース、媒体への広告出稿、SNSの拡散などを積極性に行いました。

田中

お話を聞いていると、とても戦略的に採用を行っているのがわかります。

河内氏

採用とBtoBマーケティングはとても近いという感覚を持っており、マーケティングの手法を多く応用しています。

田中

面白い観点ですね!例えば、どのようなところですか?

河内氏

BtoBは購買までのプロセスが長いという特徴があります。まずは広めに情報を集め、その中で興味を持った2~3社に問い合わせや資料請求をして、購買を検討します。採用の動きもほとんど同様ではないでしょうか。大事なのは、問い合わせや資料請求をされる検討の段階に残ることで、候補者にはそれぞれのフェーズに合った情報を伝えます。

田中

採用候補者のフェーズに合わせ、伝える情報を変えているということでしょうか。

河内氏

そうです。具体的には noteとはてなブログで周知を広め、採用ウィッシュリストで興味を深めてもらうという位置づけにしています。まずはnoteとはてなブログ、次に採用ウィッシュリストという流れがポイントで、この流れを反対にして採用ウィッシュリストで周知を広めようとしても無理があるでしょう。

田中

イベントも多く開催していらっしゃいますが、やはり候補者のフェーズに応じた内容にしているのでしょうか。

河内氏

はい。候補者の動きとして、「カミナシの事業である”デスクレスSaaS”って何?」から始まり、興味を持って深く知り、さらには当社に興味を持ち選考に進むことを視野に入れる、というストーリーを描きながら、それぞれのイベントを設計しています。中には、こちらが思い描いた通りのステップでイベントに参加していただける方もいらっしゃいます。

田中

ありがとうございます。本セミナーの参加者の方からも質問が寄せられていますので、お答えいただければと思います。「採用ウィッシュリストは河内さんがヒアリングして書いているのでしょうか?」

河内氏

それぞれの職域のメンバーが直接書いてそのままオープンしています。当社は全開オープンがバリューです。現場の生の声を伝えています。

田中

「副業人材と正社員では採用の際、重視するポイントにどんな違いがありますか。また、会社があまり副業人材の採用に積極的ではありません。どう対処したらよいでしょうか?」

河内氏

選考のポイントに大きな違いはありません。また、実は当社も副業に積極的ではありませんでした。最終的に正社員として採用することを目的として、まずは副業で入社してもらうという考えでした。ご質問された方も、正社員として採用するためにまずは副業として採用するというロジックを用いて始めてみるのはいかがでしょうか。

田中

最後に参加者の方にメッセージをお願いします。

河内氏

本日は人材採用の具体的な手法をご紹介させていただきました。各社カルチャーが異なりますので、応用できるもの・できないものがあると思います。その上で、どの会社にも共通して重要だと言えることを2つお伝えさせていただければと思います。

一つは自社のカルチャーを強くすることです。当社では半年に1度、全社員で自社のバリューなどを徹底的に議論しています。もう一つは候補者と誠実なコミュニケーションを取ることです。いずれも当たり前のことですが、この2点を疎かにして人材採用はできません。ぜひ参考にできるところはしていただいて、良い人材採用を実現してください。

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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