
退職証明書とは?離職票との違い、書き方、発行の流れを解説
従業員の退職手続きにおいて、人事労務担当者が正確に対応すべき書類の一つに「退職証明書」があります。これは、退職者が次のステップに進むために必要となる重要な証明書です。企業には、退職者から請求があった場合、この書類を発行する法的義務があります。
本記事では、退職証明書の役割と法的根拠、記載事項や具体的な書き方、発行の流れ、そして混同されやすい「離職票」との違いについて、担当者が知っておくべき実務知識を分かりやすく解説します。
退職証明書とは?その役割と法的根拠
退職証明書とは、従業員が企業に在籍していた事実および退職した事実を、企業が証明するために発行する文書です。
これは企業の社印が押印された「私文書」であり、公的な統一フォーマットは定められていません。主な使用目的は次の通りです。
| 転職先の企業への提出 | 職務経歴書に記載された内容(在籍期間、業務内容、役職など)に相違がないことを証明するため、転職先から提出を求められる場合があります。 |
|---|---|
| 国民健康保険・国民年金の手続き | 退職後、次の就職先が決まるまでの間に、市区町村役場で国民健康保険や国民年金への加入手続きを行う際、退職日を証明する書類として利用されます。 |
| 失業手当の仮手続き | ハローワークでの失業手当(基本手当)の申請には、原則として「離職票」が必要ですが、その発行が遅れる場合、仮手続き用の証明書として認められることがあります。 |
この退職証明書の発行は、労働基準法第22条(※)により定められています。退職者から請求があった場合、企業は「遅滞なく」発行する義務があります。
※出典:e-Gov 法令検索「労働基準法」
退職証明書の記載事項と具体的な書き方
退職証明書に記載する内容は、法律で定められた5項目のうち、退職者が請求した事項のみを記載します。退職者が求めていない項目を記載することは禁じられています。
この「退職者が請求した事項のみを記載する」という点が、実務上の最も重要なルールです。
① 使用期間(在籍期間)
従業員が入社してから退職するまでの期間を記載します。
【記載例】 2020年4月1日 から 2025年9月30日 まで
② 業務の種類
従業員が主に従事していた業務内容を具体的に記載します。
【記載例】 営業職として、法人顧客へのITソリューションの新規提案および既存顧客へのコンサルティング業務に従事
③ その事業における地位
退職時点での最終的な役職や職位を記載します。
【記載例】 営業部 ソリューション営業課 主任
④ 賃金
退職時点での賃金を記載します。月給、基本給、手当の内訳など、退職者が希望する形式で記載するのが一般的です。
【記載例】 退職時の賃金 月額 350,000円
⑤ 退職の事由
退職理由を記載します。自己都合か会社都合かを明確にします。
【記載例(自己都合)】 本人都合による退職
【記載例(会社都合)】 事業部門の閉鎖に伴う退職
解雇の場合の理由記載について
退職の事由が「解雇」である場合には、その具体的な理由(就業規則のどの条項に抵触したかなど)を記載する必要があります。
ただし、これは退職者から解雇理由の記載を求められた場合に限られます。 退職者が理由の記載を求めていないにもかかわらず、企業側が一方的に解雇理由を記載することはできません。
退職証明書発行の流れ
退職証明書は、退職者からの請求があって初めて発行義務が生じる書類であり、企業が自発的に全退職者へ発行するものではありません。
STEP1: 退職者からの発行請求
退職者本人から「退職証明書を発行してほしい」という請求を受けます。その際、前述の5項目のうち、どの項目を記載してほしいかを確認することが不可欠です。後のトラブルを避けるため、請求はメールなどの書面で受け付けるのが望ましいでしょう。
STEP2: 記載内容の確認
人事担当者は、退職者が希望した記載事項に漏れや誤りがないかを確認します。
STEP3:書類の作成と押印
確認した内容に基づき、退職証明書を作成します。フォーマットは任意ですが、会社の基本情報(社名、所在地、代表者名)と発行年月日を明記し、社印(角印または丸印)を押印します。
STEP4: 退職者への交付
作成した退職証明書を退職者へ直接手渡すか、郵送により交付します。法律では「遅滞なく」交付することと定められているため、請求を受けた際は速やかに対応する必要があります。
退職証明書発行に関する注意点
退職証明書を発行する際には、人事担当者が遵守すべき法的な留意点がいくつかあります。
発行義務の遵守
正当な理由なく発行を拒否したり、遅延させたりすることは、労働基準法違反に該当します。その場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
記載事項の制限
退職者が請求していない事項を記載してはいけません。特に、退職者の転職を妨げる目的で、本人が望まないネガティブな情報を記載することは固く禁じられています。
発行期限
退職者は、退職後2年間にわたり退職証明書の発行を請求する権利があります。
退職証明書と離職票の違いとは?
退職証明書は企業が発行する「私文書」であるのに対し、離職票はハローワークが発行手続きを行う「公文書」であり、その目的および法的根拠が根本的に異なります。
両者は退職時に受け取る書類として混同されがちですが、人事担当者はその違いを正確に理解し、退職者へ適切に説明できるようにしておく必要があります。
| 項目 | 退職証明書 | 離職票 |
|---|---|---|
| 発行元 | 企業 | ハローワーク(手続きは企業経由) |
| 法的根拠 | 労働基準法 | 雇用保険法 |
| 様式 | 自由(定められたフォーマットなし) | 公的な定めあり(2種類) |
| 発行義務 | 退職者から請求があった場合 | 退職者が希望した場合 |
| 主な使用目的 | 転職先への在籍証明、国民健康保険・国民年金の手続きなど | 失業給付(基本手当)の受給手続き |
| 記載内容 | 退職者が希望した事項のみ | 賃金支払状況、離職理由など詳細 |
退職者の円満な門出を支える正確な事務手続き
退職証明書は、退職者が新たな生活をスムーズにスタートさせるために重要な役割を果たす書類です。人事労務担当者としては、その法的義務と記載ルールを正しく理解し、請求があった際には迅速かつ正確に対応することが求められます。
特に、「退職者が希望した項目のみを記載する」という大原則は、いかなる場合も遵守しなければなりません。離職票との違いを十分に理解したうえで、適切な情報提供と事務処理を行うことが、退職者の円満な門出を支える企業の最後の務めであり、企業の信頼性を保つうえでも不可欠です。
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今回は、企業の人事担当者が知っておくべき「退職証明書」について解説しました。
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