
ハラスメントとは?定義や種類、事業者側の対応を解説
職場における「ハラスメント」は、今や企業が最優先で取り組むべき経営課題の一つです。
個人の尊厳を傷つけるだけでなく、職場の生産性を低下させ、企業の社会的信用を失墜させかねない重大な問題です。
本記事では、ハラスメントの基本的な定義から、その発生要因、法律で定められた種類、さらに企業に課せられる法的責任と具体的な対策まで、人事労務担当者が知っておくべき知識を網羅的に解説します。
そもそもハラスメントとは?定義を解説
ハラスメントとは、他者に対する言動によって、相手に不利益や不快感、脅威を与える「嫌がらせ」行為全般を指します。
重要なのは、行為者に「いじめる意図があったかどうか」が問題の本質ではないという点です。たとえ指導や冗談のつもりであっても、その言動を受け取った側が不快に感じ、尊厳を傷つけられ、能力の発揮を妨げられるなど、苦痛を感じればハラスメントに該当し得るのです。
もちろん、個人の主観だけで全てが決まるわけではなく、その言動が行われた状況や背景、社会的通念に照らし合わせて客観的に判断されます。
なぜハラスメントは発生するのか?その背景にある2つの要因
ハラスメントは、特定個人の性格だけに起因するものではなく、個人の認識と組織の環境という2つの要因が複雑に絡み合って発生します。
要因①:個人の要因(価値観の多様化と認識の欠如)
ハラスメントは、個人の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や、価値観のアップデートができていないことに起因する場合があります。
世代間ギャップや育ってきた環境の違いから、「これくらいは当たり前」「愛のある指導だ」といった旧来の価値観を他者に押し付けてしまうケースがあります。
また、どのような言動が相手を傷つけるのか、法的にハラスメントと見なされるのかといった知識が不足していることも大きな要因となります。「知らなかった」では済まされない問題であるという認識を、全従業員が持つ必要があります。
要因②:環境の要因(組織風土とコミュニケーション不足)
過度なプレッシャーや失敗が許されないといった組織風土、そして職場内のコミュニケーション不足は、ハラスメントの温床となります。
心理的安全性が低く、上司や同僚に意見を伝えにくい環境では、強い立場の者から弱い立場の者への理不尽な言動が起きやすくなります。
さらに、日常的なコミュニケーションが不足していると、相互理解が欠如し、些細なすれ違いが大きな問題へと発展しやすくなります。ハラスメントは、個人の問題であると同時に、組織の在りかたが問われる問題でもあるのです。
職場における代表的なハラスメントの種類
職場におけるハラスメントには様々な種類がありますが、特に法律で定義され、企業に対策が義務付けられている代表的なものを理解しておくことが重要です。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントとは、職場内の優位な関係性を背景として、業務の適正な範囲を超え、相手に精神的・身体的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為です。
厚生労働省は、以下の6類型を代表的な例として挙げています。(※)
- 身体的な攻撃: 殴る、蹴る、物を投げつけるなど
- 精神的な攻撃: 人格を否定するような暴言、長時間にわたる厳しい叱責など
- 人間関係からの切り離し: 挨拶をしても無視する、一人だけ別室に隔離するなど
- 過大な要求: 到底達成不可能な業務目標を課す、業務とは無関係な私的な雑用を強制するなど
- 過小な要求: 本人の能力や経験とかけ離れた程度の低い業務を命じる、仕事を与えないなど
- 個の侵害: 個人のプライベートな事柄に過度に立ち入る、個人情報を本人の許可なく他者に漏らすなど
※出典:厚生労働省「事業主の皆さまへ NOパワハラ」
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシュアルハラスメントとは、職場において、相手の意に反する性的な言動が行われ、それに伴う対応によって労働条件で不利益を受けたり、職場環境が害されたりすることです。
| 対価型セクシュアルハラスメント | 性的な要求を拒否したことを理由に、解雇、降格、減給などの不利益な取り扱いをすること |
|---|---|
| 環境型セクシュアルハラスメント | 性的な言動によって職場環境が不快なものとなり、従業員の能力発揮に重大な悪影響が生じること (例:性的な噂を流す、ポスターを掲示する) |
※出典:厚生労働省「ハラスメントの類型と種類│対価型セクシュアルハラスメント」
※出典:厚生労働省「ハラスメントの類型と種類│環境型セクシュアルハラスメント」
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメントとは、妊娠・出産、育児休業などの制度利用を理由として、精神的・身体的な嫌がらせを行ったり、解雇や雇い止め、不利益な配置転換などを行ったりすることです。
女性従業員だけでなく、育児休業を取得しようとする男性従業員に対する嫌がらせ(パタニティハラスメント)もこれに含まれます。
その他のハラスメント
上記以外にも、SOGIハラスメント(性的指向や性自認に関する嫌がらせ)、ケアハラスメント(家族の介護を行う従業員への嫌がらせ)、モラルハラスメント(言葉や態度による精神的暴力)など、社会の変化に伴い様々なハラスメントが問題視されています。
ハラスメントがもたらす深刻な影響
ハラスメントは、被害者個人と企業・組織の双方に、計り知れないほどの深刻なダメージを与えます。
被害者個人への影響
ハラスメントを受けた被害者は、自尊心を深く傷つけられ、精神的・身体的に深刻なダメージを負います。
うつ病や適応障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といったメンタルヘルス不調に陥るケースは少なくありません。その結果、本来の能力が発揮できなくなるだけでなく、休職や退職を余儀なくされ、キャリア形成に重大な支障をきたすことになります。
企業・組織への影響
一人の従業員によるハラスメント行為は、組織全体に悪影響を及ぼし、企業の存続を揺るがしかねないリスクを含んでいます。
具体的には、以下のような影響が考えられます。
- 職場環境の悪化と士気の低下: 職場の雰囲気が悪くなり、従業員のモチベーションが低下します。
- 生産性の低下: チームワークが乱れ、業務効率が悪化します。
- 人材の流出と採用難: 優秀な人材が離職し、企業の評判が悪化することで、新たな人材の確保も困難になります。
- 企業イメージの失墜: ハラスメントの事実が公になれば、社会的信用が大きく損なわれます。
- 法的責任の追及: 被害者から損害賠償請求訴訟を起こされるリスクがあります。
ハラスメントに関する企業の法的責任
事業主(企業)は、法律に基づき、ハラスメントを防止するために必要な措置を講じる義務を負っています。
この法的責任は、主に「職場環境配慮義務」と「使用者責任」の2つの観点から構成されています。
・職場環境配慮義務(労働契約法第5条)
企業は、労働契約法第5条(※)により従業員が安全で健康にはたらけるよう、必要な配慮をする義務があります。ハラスメントが放置されている職場は、この義務を満たしているとは言えず、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。
※出典:e-Gov法令検索 労働契約法
・使用者責任(民法第715条)
従業員(加害者)が業務中に他者(被害者)に損害を与えた場合、民法第715条の「使用者等の責任」(※1)に基づき、その従業員を雇用している企業も、損害を賠償する責任を負うと定められています。
これらの法律に基づき、「労働施策総合推進法」(通称: パワハラ防止法)などの法律では、企業に対してハラスメント防止措置(※2)を具体的に講じることを義務付けています。
※出典1:法令リード 民法
※出典2:厚生労働省「ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置」
事業者が講ずべきハラスメント対策とは
企業は、ハラスメントを「起こさせない」「見逃さない」ための体制を構築する必要があります。法律で定められた措置義務を参考に、以下の対策を体系的に進めましょう。
① 方針の明確化と周知・啓発
「ハラスメントは絶対に許さない」という企業の姿勢を、トップメッセージとして明確に発信することが全ての対策の出発点です。
そのうえで、就業規則にハラスメントの定義や禁止事項、加害者に対する懲戒処分の方針を具体的に明記します。さらに、これらの内容を社内報やポスター、研修などを通じて全従業員に繰り返し周知し、意識を徹底させることが重要です。
② 相談体制の整備
従業員が安心してハラスメントについて相談できる窓口を設置し、その存在を広く知らせる必要があります。
相談窓口は、人事部門だけでなく、外部の専門機関(弁護士やカウンセラー)も活用するなど、複数の選択肢を用意することが望ましいでしょう。相談者のプライバシー保護を徹底し、相談したことで不利益な扱いを受けないことを保証することが、窓口を機能させるための鍵となります。
③ 事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントの相談があった場合、事態を放置せず、迅速かつ正確に事実関係を確認するための仕組みを整えておく必要があります。
中立的な立場の担当者が、関係者双方からヒアリングを行います。事実が確認できた場合は、就業規則に基づき加害者に対して厳正な処分を下し、被害者のケア(メンタルヘルスケアや配置転換など)を速やかに行います。また、再発防止策を講じ、組織全体で共有することも不可欠です。
④ 研修の実施
全従業員を対象としたハラスメント研修を定期的に実施し、知識と意識の向上を図ります。
一般従業員向けには、ハラスメントの基礎知識や相談窓口の利用方法を、管理職向けには、部下からの相談への対応方法やハラスメントを未然に防ぐためのマネジメント手法(アンガーマネジメント、コミュニケーションスキルなど)といった、階層別の研修が効果的です。
⑤ プライバシーの保護と不利益な取扱いの禁止
相談者や調査に協力した人のプライバシーを厳守し、彼らが報復などの不利益な扱いを受けないことを徹底しなければなりません。
このルールが守られなければ、従業員は安心して声を上げることができず、相談窓口は形骸化してしまいます。この「安心して相談できる環境」の担保こそ、ハラスメント対策の生命線です。
ハラスメントのない健全な職場を目指して
ハラスメントは、個人の尊厳を踏みにじり、組織を蝕む深刻な問題です。その防止は、今や企業の法的義務であると同時に、持続的な成長に不可欠な社会的責任でもあります。
本記事で解説した対策は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、経営層の強いリーダーシップのもと、全社一丸となって継続的に取り組むことで、全従業員が互いを尊重し、安心して能力を発揮できる健全な職場環境を築くことができます。人事労務担当者は、その中心的な役割を担うことが期待されています。
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