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【イベントレポート】新規事業起案〜推進のポイントとは?実践者&支援者であるキリンHD・田中氏に聞く

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成功確率は「千三つ」と言われる、新規事業。どのようにしたら期待通りの成果が得られるのかと悪戦苦闘している担当者も多いでしょう。そこでlotsfulでは、キリンホールディングスの新規事業公募制度「キリンビジネスチャレンジ」において、調剤薬局向けAI置き薬サービス「premedi(プリメディ)」を立ち上げたキリンホールディングス・田中吉隆氏をお招きし、オンラインセミナーを開催しました。

田中氏は現在、新規事業に携わると同時に「キリンビジネスチャレンジ」の事務局も兼任し、数百件の新規事業を支援。実務者・支援者の両面から新規事業に携わりつつ、有志の企業内大学「キリンアカデミア」を始動させ、参加者が2,000人を超える全社的な活動に発展させています。

このような経験を踏まえ、大企業における新規事業の立ち上げと仕組みづくり、立ち上げた事業をどのように推進していくかなど、新規事業担当者が気になるポイントについてお話を伺いました。本記事では、オンラインセミナーの内容をダイジェストでお届けします。

【画面下】パネリスト/キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部新規事業グループ 田中吉隆氏
2015年、キリンホールディングスに新卒入社し、営業と経理を経験。2019年に社内の新規事業コンテスト「キリンビジネスチャレンジ」にて、薬局向けAI置き薬「premedi」を新規事業として起案し、採択。2022年に事業化。現在はキリンビジネスチャレンジの事務局も兼任し、社内新規事業の制度設計・伴走支援を行う。有志の企業内大学「キリンアカデミア」を立ち上げ、参加者が2,000人を超える全社的な活動になる。2020年グループ社長賞にあたるキリングループアワードを受賞。経済産業省のグローバル起業家等育成プログラム「始動 Next Innovator 2021」シリコンバレー選抜。一般財団法人・生涯学習開発財団認定コーチ。
 
【画面右上】モデレーター/パーソルイノベーション株式会社『lotsful』 代表 田中みどり 
2012年新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。 IT・インターネット業界の転職支援領域における法人営業に従事。2016年より新規事業であるオープンイノベーションプラットフォームeiicon(現:AUBA)の立ち上げを行う。Consulting・Salesグループの責任者として従事し、 サービス企画、営業、マーケティング、イベント企画、経営管理などを幅広く担当。2019年6月より副業マッチングサービス『lotsful』をローンチ、代表を務める。

6年続く「キリンビジネスチャレンジ」の審査基準

lotsful・田中

田中さんのように経理部門にいながら新規事業をスタートさせる方は珍しいと感じているのですが、2019年には有志の企業内大学「キリンアカデミア」も立ち上げていますよね。

キリン・田中氏

「キリンアカデミア」は2019年に同期4名でスタートさせました。さまざまな人をお招きして、毎月ウェビナーなどを開催しています。新規事業を含め、私がこのような取り組みを始めたのは、このまま経理の道を進んでいくか迷いがあったからです。何か学びのきっかけがほしいと思い、「キリンアカデミア」を立ち上げました。その頃から新規事業にも憧れを抱いていて。

しかし、斬新なアイデアもなく始めるにはハードルが高いと感じていました。ただ、とりあえずはチャレンジしてみようと、キリンの新規事業公募制度「キリンビジネスチャレンジ」に2019年に応募しました。

lotsful・田中

「キリンビジネスチャレンジ」は2017年から始まり、6年も続いています。現在はどのようなコンテストに成長していますか。

キリン・田中氏

大事にしているポイントは昔と変わらず、キリンの柱になる事業の創出を目指すこと。まずは応募数にこだわっていて、初年度は30応募程度だったものが、直近では250応募にまで増えています。他にも、新規事業の進め方の情報発信をしたり、事業化のブラッシュアップのサポートも行っています。

lotsful・田中

「キリンビジネスチャレンジ」の審査基準はどのように設定していますか。

キリン・田中氏

ボトムアップ型の新規事業は、顧客の課題に入り込んでいるアイデアが多く、課題をどんどん細分化して価値のあるものにはなっているのですが、ニッチ過ぎる事業になるケースが少なくありません。もちろん何の裏付けもない空想の新規事業はアウトですが、そうしたニッチ事業をどうスケールさせていくかというのは、審査基準にも入れています。これは起案者へのアドバイスも必要です。ジャッシする審査員ともすり合わせを行いながら、「キリンビジネスチャレンジ」が求めることと、審査基準に齟齬がないようにしています。

また、審査員の好みだけでアイデアを判断するようなコンテストだと、仕組み的には厳しいですよね。たとえば経営陣が変わると、新規事業に対するジャッジポイントも変わってしまいます。避けなければならないのは、どの案も通過しなくなるといった事態です。「そもそも新規事業って意味あるの?」といった経営陣だと、可能性がなくなってしまいます。だからこそ、経営層のコミットを仕組みとして継続的に得られるように、ステージゲートをしっかりと設けるようにしています。

薬剤師にヒアリングを重ねながら事業案を絞っていく

lotsful・田中

ここからは田中さんが立ち上げた新規事業(調剤薬局向けAI置き薬サービス「premedi」)についてお話を聞いていきます。最初はアイデアがなかったというお話もありましたが、新規事業のタネはどのように見つけたのですか?

キリン・田中氏

実は最初に新規事業の着想を得たのは、合コンだったんです(笑)。たまたまそのときに薬剤師の方が来ていて仕事の話題になったときに、いろいろと課題がありそうだなと感じました。そこで社内や身内のつながりを頼りに、薬剤師の方を紹介いただき、ヒアリングを重ねていきました。

lotsful・田中

そのようなヒアリングをもとに、解決すべき課題を事業案にしたと。

キリン・田中氏

そうですね。それからは薬局業界にドップリと浸かって。知り合いも増えましたし、この業界を良くしていきたいという思いも強くなっていきました。「キリンビジネスチャレンジ」では応募する際にエントリーシートを提出するのですが、そのハードルが結構高かったので、まずはその対策として薬剤師数名にヒアリングをしました。事業アイデアがコンテストを通過してからは、毎日のようにヒアリングをしに行っていましたね。

lotsful・田中

事業内容は最初から明確だったのでしょうか。

キリン・田中氏

最初の頃は課題がありそうだと感じていても、その原因がよくわかっておらず、「薬剤師の転職斡旋」といった事業案も考えていました。ヒアリングを重ねていく中で、薬剤師の仕事は業務量がとても多く大変で、その中でも在庫管理に時間がかかることを知りました。誰にヒアリングしても、在庫管理の話はとても盛り上がるんです。これはその業務に、課題がたくさんある証拠なんです。こうして在庫管理に着目するようになり、解決策を考えながら、どれなら実現可能かを探っていきました。

lotsful・田中

新規事業を手伝ってもらう、外部のパートナー企業などはどのように探したのでしょうか。

キリン・田中氏

パートナー企業は自分の足で探しましたね。展示会で知り合った方がとてもいい人で、その方に協力いただいたりしています。もともと社内ベンチャーで、薬局の卸免許も持っている企業なのでとても頼りにしています。

lotsful・田中

「premedi」は、AIを活用して調剤薬局の医薬品の在庫管理を効率化する事業ですが、技術的な部分は誰にお願いしているのですか。

キリン・田中氏

キリン社内のリサーチ部門の人にこの事業の話をしたら、面白そうだからと手伝ってくれるようになりました。新規事業はそうした社内の協力があって、成り立っている部分がありますよね。あとはAI領域の専門知識を持った、副業人材にも入ってもらっています。AIに関する専門知識を持った方の知見をふんだんにいれることができるので助かっています。

lotsful・田中

新規事業を進める中で、苦労したことはありますか。

キリン・田中氏

やはり自分の能力には限界があるので、勉強が必要なことが多くありました。営業やマーケティングの知識は、想像以上に大切だなと痛感しました。”新規事業あるある”かもしれませんが、いろんな人から話を聞いて課題を抽出し、サービスを考えると、「これ勝手にどんどん売れるのでは」という気になってきて(笑)。しかし現実的には、魅力をしっかり伝えるマーケティングの視点や、商材を売り込む営業力は欠かせませんね。

lotsful・田中

ヒアリング時に「いいね」と言われても、それにお金を出すかどうかは別問題だったりしますよね。ちなみに、キリン社内ではどのように新規事業を育てているのですか。

キリン・田中氏

キリンでは、仕組みを大切にしています。決裁権は部長クラスが持っていて、彼らがOKと言えば進められることが多くあります。他社では新規事業に関する判断を都度、役員会や経営会議に出す必要があったりしますよね。当社の場合は部長の決裁があれば一定の検証を進められる仕組みにしていますので、スピード感が違うのではないでしょうか。

専門性を持った副業人材が、新規事業を加速させる

lotsful・田中

ここからは、本セミナーの視聴者からの質問に答えていただきたいと思います。「新規事業コンテストの応募者を増やすための工夫は?」という質問がきています。

キリン・田中氏

新規事業のアイデアにつながる情報を積極的に発信しています。また、無理矢理にでも応募希望者同士をチームにして、新規事業を考えるようなこともしています。チームになれば、お互いに約束を守ろうと行動しますし、勇気も湧きますから。他にもワークショップを開催して、自分の興味領域はどこにあるのか考えるといったこともしています。

初期段階のメンタリングも重要で、事務局の担当者や新規事業経験者が壁打ち相手に積極的になっています。そこで注意するのは、いきなりアイデアを叩くのではなく、相手のやる気を引き出すようにコミュニケーションを取ることです。応募の初期段階は、まずはモチベーションが大切ですから。

lotsful・田中

「既存事業とのカニバリやシナジーも気になると思うが、どんな基準で新規事業を採択するのか?」という質問についても教えてください。

キリン・田中氏

「その新規事業はキリンでやる意義があるのか」という点が問われます。その他に、自社のアセットが使えるか、既存事業への貢献が見込めるか、経営方針と合っているかという三点もチェックされます。

ただし、自社のアセットが使えるのかといった部分は、事業化しないと見えない部分があります。それらのポイントは、最終選考前までに後付けでもいいからと、起案者に考えてもらう場合もあります。正直、アセットが使えるかは、運もありますよね。

lotsful・田中

他にも、「先ほど副業人材を活用しているという話があったが、今はどんな人材を求めているのか?」という質問もきています。

キリン・田中氏

AIや統計がわかっている人がいると助かりますね。その他にも、専門性が高い人を常に求めています。そうした人材は時間に関係なく、価値あるアウトプットをしてくれますし、自分にはない知識も補ってくれる。また、マーケティングや営業の仕組みづくりにも専門性が必要なので、どこかのタイミングで入ってもらいたいと考えています。

lotsful・田中

「なぜ新規事業という形にしたのか?起業しようとは考えなかったのか?」という質問についてはいかがでしょうか。

キリン・田中氏

これは自分の性格が大きく関係していると思います。起業は自分には合わないなと。わりとビビりな性格で、広告で5万円、10万円と費用をかけるだけで「本当にこれでいいのか」と葛藤するときがありますから(笑)。私のアイデアを選んで、キリンが背中を押してくれたからこそ、勇気を持って取り組むことができています。

lotsful・田中

最後に「キリンでは既存事業のアセットを使える仕組みはあるのか?」という質問について教えてください。

キリン・田中氏

法務や知財、調達といったバックオフィス部門は、新規事業でとても重要です。そうした部署には事務局から「何かあれば協力してほしい」と常に声をかけています。

lotsful・田中

本日は貴重なお話、ありがとうございました。ぜひみなさん、新規事業立ち上げの参考にしてみてください!

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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