
残業代とは?正しい計算方法、割増率の種類、法的ルールを網羅的に解説
企業と従業員の間で、最もトラブルになりやすい労務問題の一つが、「残業代(時間外・休日・深夜労働割増賃金)」です。
「うちは年俸制であるため残業代は支給されない」「管理職であるため対象外である」「15分単位で計算している」など、こうした誤った認識や運用は、未払い残業代請求のリスクを高めるだけでなく、労働基準監督署による是正勧告の対象となり、結果として企業の社会的信用を失墜させる要因となります。
人事労務担当者には、労働基準法に基づく正しい残業代の仕組みを理解し、1円単位まで正確に計算したうえで、適切に支給する責務があります。
本記事では、残業代の基本的な定義をはじめ、複雑な割増率の種類、具体的な計算式、ならびに運用上押さえておくべき重要な法的ルールまで、実務に必要な知識を体系的に解説します。
残業代とは?その法的な定義
残業代とは、労働基準法で定められた労働時間を超えてはたらいた場合、または休日や深夜にはたらいた場合に、企業が従業員に対して支払わなければならない割増賃金を指します。
労働基準法第37条では、使用者が労働者に時間外労働、休日労働、または深夜労働を行わせた場合、通常の賃金に一定の率を上乗せした(割り増しした)賃金を支払うことが義務付けられています。
※出典:e-GOV法令検索「労働基準法」
「法定労働時間」と「所定労働時間」の違い
残業代を理解するうえで、まず明確に区別しなければならないのが、この2つの労働時間です。
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法定労働時間 |
法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限を指し、原則として1日8時間、週40時間とされています。この上限を超えてはたらかせた時間が、法律上の残業、すなわち時間外労働となり、割増賃金の支給対象となります。 |
|---|---|
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所定労働時間 |
所定労働時間とは、企業が就業規則や雇用契約において定めた労働時間のことです。 |
仮に、所定労働時間が7時間の従業員が1時間残業し、合計で8時間はたらいた場合、この1時間は法内残業と呼ばれます。この法内残業については、通常の賃金(1.0倍の賃金)を支払えば足り、法律上の割増賃金である1.25倍の支給は必須ではありません。ただし、就業規則等で割増を定めている場合は、この限りではありません。
一般的に残業代と呼ばれるものは、法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えて行われた労働に対して支払われる割増賃金を指します。
残業の種類とそれぞれの割増率
残業代の計算を複雑にしている要因の一つが、「どのような種類の残業であるか」によって、適用される割増率が異なる点です。大きく分けると、以下の4つの基本パターンと、それらの組み合わせを理解する必要があります。
① 時間外労働
法定労働時間である1日8時間、または週40時間を超えて労働させた場合に発生します。
いわゆる通常の残業で、割増率は25%以上(1.25倍)です。
しかしながら、大企業、中小企業を問わず、月60時間を超える時間外労働については割増率が50%以上(1.50倍)に引き上げられている点に注意が必要です。これは、2023年4月から完全に適用されています。
② 深夜労働
原則として、午後10時から翌午前5時までの間に労働させた場合に発生します。
これは、時間外労働であるかどうかにかかわらず、この時間帯にはたらいた場合には必ず発生します。割増率は25%以上(0.25倍)で、通常の労働時間の賃金(1.0)に0.25が上乗せされる計算になります。
③ 休日労働(法定休日)
労働基準法により義務付けられている週1回、または4週を通じて4日の法定休日に労働させた場合に発生します。割増率は35%以上(1.35倍)です。
ここで重要なのが、法定外休日との違いです。完全週休2日制(土日休み)の企業において、日曜日を法定休日、土曜日を法定外休日(所定休日)としている場合、土曜日の出勤は時間外労働として扱われ、割増率は1.25倍となりますが、日曜日の出勤は休日労働として扱われ、割増率は1.35倍となります。
④ 組み合わせによる計算(条件が重複する場合)
複数の労働条件が重なった場合、割増率はそれぞれ加算して計算されます。
例えば、「午前9時からはたらき続け、午後10時以降も残業した」場合は下記のような計算になります。
・時間外労働(25%)+ 深夜労働(25%)= 50%以上(1.50倍)
また、「法定休日に出勤し、午後10時以降まではたらいた」場合は下記のようになります。
・休日労働(35%)+ 深夜労働(25%)= 60%以上(1.60倍)
ここでは、休日労働には「時間外」の概念が存在しない点には注意が必要です。
法定休日における労働は、労働時間の長短にかかわらず、全て休日労働として計算され、割増率は1.35倍となります。
したがって、法定休日に8時間を超えてはたらいた場合であっても、時間外労働に係る割増率である0.25を加算する必要はありません。ただし、深夜時間帯に該当する場合には、深夜割増の適用が必要です。
残業代の正しい計算方法
残業代の金額は、以下の計算式により算出します。
残業代 = 1時間あたりの基礎賃金(単価) × 対象となる残業時間数 × 割増率
この計算を正確に行うためには、「1時間あたりの基礎賃金」を正しく算出することが、最も重要なポイントとなります。
ステップ1:計算の基礎となる「月給」を決める
まず、その月の給与総額から、法律において「除外してもよい」と定められている手当を差し引きます。これらは、除外賃金と呼ばれています。
逆に言えば、これら以外の手当、例えば役職手当、資格手当、精皆勤手当などは、すべて残業代計算の基礎に含めなければなりません。
法律で定められた7つの除外賃金
| 1 |
家族手当 |
|---|---|
| 2 |
通勤手当 |
| 3 |
別居手当 |
| 4 |
子女教育手当 |
| 5 |
住宅手当 |
| 6 |
臨時に支払われた賃金(結婚祝金など) |
| 7 |
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) |
※家族手当や住宅手当であっても、扶養人数に関係なく一律で支給されている場合や、家賃額に関係なく一律で支給されている場合には、実質的に基礎賃金とみなされ、除外できないことがあります。
ステップ2:1時間あたりの基礎賃金(単価)を算出する
除外賃金を差し引いた月給を、1ヶ月平均所定労働時間で割ることにより、1時間あたりの基礎賃金を算出します。
1時間あたりの基礎賃金(単価) = (月給総額 − 除外賃金) ÷ 1ヶ月平均所定労働時間
※1ヶ月平均所定労働時間の算出方法
(365日 − 年間休日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月
ステップ3:残業時間と割増率を掛ける
算出した時給単価に、実際の残業時間数および該当する種類の割増率を掛けて、残業代を算出します。
【計算例】
- 基礎月給:30万円(除外賃金控除後)
- 1ヶ月平均所定労働時間:160時間
- 残業時間:通常残業20時間、深夜残業10時間
|
時給単価 |
300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円 |
|---|---|
|
通常残業代 |
1,875円 × 20時間 × 1.25 = 46,875円 |
|
深夜残業代 |
1,875円 × 10時間 × 1.50(1.25+0.25) = 28,125円 |
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合計残業代 |
46,875円 + 28,125円 = 75,000円 |
人事が押さえておくべき残業代の重要ルール
残業代については、計算式だけでなく、運用上のルールにおいても、多くの企業が誤解しているポイントがあります。
ルール①:1分単位での計算が原則(切り捨ては違法)
「自社では15分単位で残業時間を付けている」「30分未満は切り捨てている」といった運用は、労働基準法に違反します。労働時間は、1分単位で把握し、計算することが原則とされています。
日々の労働時間について、切り捨て処理を行うことは認められていません。
ただし、事務の簡素化を目的とした例外として、「1ヶ月の残業時間の合計」において、1時間未満の端数が生じた場合には、
- 30分未満を切り捨て
- 30分以上を1時間に切り上げ
という方法が認められています。これは、あくまで月合計時間に限った取り扱いであり、日ごとの労働時間を切り捨てることは認められていません。
ルール②:管理職(管理監督者)の深夜・休日割増の必要性
労働基準法上の管理監督者に該当する場合、時間外労働に対する割増賃金(1.25倍)の支払いと、休日労働に対する割増賃金(1.35倍)の支払いは免除されます。
しかし、深夜労働に係わる割増賃金(0.25倍)については、免除の対象とはなりません。
そのため、管理監督者であっても、午後10時以降にはたらいた場合には、深夜労働手当を支払う必要があります。
また、自社における管理職が、法的に定められた管理監督者の要件(経営者との一体性や、十分な権限および待遇など)を満たしていない、いわゆる名ばかり管理職に該当する場合には、すべての残業代について支払い義務が発生します。
ルール③:固定残業代(みなし残業)の超過分
固定残業代制度を導入している場合であっても、実際の残業時間が、あらかじめ定めた固定残業時間を超過したときには、その差額(超過分)の残業代を追加で支払わなければなりません。
「営業手当を支給しているため、いくら残業しても追加の支払いは不要である」といった運用は、労働基準法に違反します。
ルール④:残業代請求の時効は「3年」
2020年4月の法改正により、未払い残業代を過去に遡って請求できる期間(消滅時効)は、従来の2年から3年へと延長されました。なお、将来的には5年へ延長される予定とされています。
この改正により、未払い残業代に関するリスク(潜在的な負債額)は、従来と比較して約1.5倍に増加しています。企業を守るためには、日々の正確な勤怠管理と、適正な計算が不可欠です。
まとめ:正確な残業代計算は、企業の信頼の証
残業代の計算は非常に複雑ですが、これを疎かにした場合、労使トラブルの発生、従業員の離職、採用難、さらには法的制裁といった、深刻な経営リスクを招くおそれがあります。
基本給に何を含めるのか、割増率は正しく設定されているのか、1分単位での勤怠管理が適切に行われているのか、といった点を確認することが重要です。
これらを正しく運用することは、単なるコンプライアンス対応にとどまりません。従業員に対して、はたらいた分は正当に報いるという企業の誠実な姿勢を示し、信頼関係(エンゲージメント)を構築するための基盤となります。
人事労務担当者は、給与計算システムによる自動計算に依存するだけでなく、その計算ロジックが法令に適合しているかどうかを、定期的に確認し、見直すことが重要です。
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今回は、HR担当者が把握しておくべきテーマとして、残業代に関する考え方や、適切な労務管理の重要性についても触れながら解説しました。
残業代に関する課題は、業務量の偏りや人手不足が原因で顕在化することも少なくありません。慢性的な残業が発生している場合には、体制そのものを見直し、必要なスキルを外部から補うことが有効な手段となります。
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