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人事ノウハウ

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ストライキとは?法的な権利、企業が講じるべき予防策と発生時の対処法を徹底解説

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「ストライキ」は、労働者が使用者(企業)に対して労働条件の改善などを要求する際に行使する、最も強力な手段の一つです。

日本では、かつての労働争議が多発した時代に比べると、その件数は大幅に減少しています。しかし、ストライキは労働者に憲法で保障された基本的な権利(団体行動権)であり、その存在意義や法的な取り扱いを理解することは、人事労務管理において不可欠です。

万が一、自社でストライキが発生した場合、あるいはその兆候が見られた場合、企業側はどのように対応すべきでしょうか。不適切な対応は、労使関係を修復不可能なほど悪化させるだけでなく、法的な問題(不当労働行為など)に発展するリスクもはらんでいます。

本記事では、ストライキの基本的な定義から、その法的な特徴、予防策、そして万が一発生してしまった場合の具体的な対処法まで、人事労務担当者が知っておくべき知識を解説します。

ストライキとは?その法的な位置づけ

ストライキ(Strike)とは、労働者がその要求を貫徹することを目的として、労働組合などの団結のもとで、集団的に労務の提供を停止すること(同盟罷業:どうめいひぎょう)を指します。

これは、労働者が使用者に対して経済的・業務的な圧力をかけ、団体交渉を有利に進めるための手段です。ストライキは、「争議行為(そうぎこうい)」と呼ばれる労働組合の行動形態の中で、最も代表的かつ強力なものとして位置づけられています。

憲法で保障された「団体行動権」

ストライキの権利は、日本の法体系の頂点である日本国憲法第28条(※)によって強力に保障されています。

【日本国憲法 第28条】
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

この条文で示される「勤労者の三権(労働三権)」のうち、ストライキは「団体行動権」の中核をなす権利です。労働者は、経済的に強い立場にある使用者と対等な立場で交渉を行うために、集団で行動する権利が認められています。

※出典:e-GOV法令検索「日本国憲法」

労働組合法による強力な保護

憲法の保障を受け、労働組合法では、ストライキなどの正当な争議行為を行った労働組合や労働者に対し、以下の3つの強力な保護を与えています。

1.刑事免責(労働組合法 第1条第2項)※1

正当な争議行為であれば、威力業務妨害罪(刑法第234条)などの刑事罰の対象とはなりません。

2.民事免責(労働組合法 第8条)※2

正当な争議行為によって企業が損害(例:売上の減少、生産停止による損失)を被ったとしても、企業は労働組合や組合員個人に対して損害賠償を請求することはできません。

3.不当労働行為の禁止(労働組合法 第7条)※3

企業が、労働者が正当なストライキに参加したことを理由に、その労働者を解雇したり、降格させたりするなど、不利益な取り扱いをすることは「不当労働行為」として固く禁止されています。

ただし、これらの保護はあくまで「正当な争議行為」であることが前提です。例えば、暴力行為を伴うもの、政治的な目的のみを掲げるもの、団体交渉のテーブルに着く努力を一切せずに行うものなどは、正当性を欠くと判断され、上記の保護を受けられない場合があります。

※1 出典:e-GOV法令検索「労働組合法」第1条第2項
※2 出典:e-GOV法令検索「労働組合法」第8条
※3 出典:e-GOV法令検索「労働組合法」第7条

ストライキの主な特徴と形態

ストライキと一口に言っても、その実施形態は様々です。要求内容や戦術に応じて、企業に与える影響の度合いも異なります。

全面ストライキ(All-out Strike)

最も強力な形態であり、労働組合に所属する全組合員が、要求が受け入れられるまで無期限(または期限を定めて)一斉に業務を停止するものです。企業の事業活動を全面的に麻痺させることを目的としており、使用者側への圧力は最大となります。

部分ストライキ(Partial Strike)

組合員の一部、あるいは特定の事業所や特定の部門の組合員のみが業務を停止する形態です。企業の基幹となるライン(例:製造業の主要な生産ライン、運輸業の基幹路線)を狙って行われることが多く、組合員の負担を抑えつつ、企業に効率的に打撃を与える戦術として用いられます。

時限ストライキ(Timed Strike)

「○月○日の午前中のみ」「始業から2時間」というように、あらかじめ時間を区切って行うストライキです。組合側にとっては、労務の提供を完全に停止することで強い抗議の意思を示しつつ、賃金カットの影響を最小限に抑えられるメリットがあります。企業側にとっては、短時間であっても業務の混乱は避けられず、特に顧客対応や生産計画に大きな影響が出ます。

指名ストライキ(Designated Strike)

労働組合が、組合員の中から特定の者(リーダーや一部のメンバーなど)を「指名」し、その指名された者だけがストライキに参加する形態です。

ストライキとボイコット、その他の争議行為との違い

ストライキは「争議行為」の一種ですが、他にも様々な形態が存在します。特に「ボイコット」との違いは、明確に理解しておく必要があります。

ストライキとボイコットの違い

両者の違いは、「誰に対して」「何を停止するのか」という点にあります。

ストライキ(Strike)

対象

自らが雇用される使用者(企業)に対して行う。

行動

労務の提供(=はたらくこと)を集団で拒否する。

目的

賃上げや労働時間短縮など、自らの労働条件の改善を直接要求する。

ボイコット(Boycott)

対象

主に取引先や顧客(第三者)に対してはたらきかける。

行動

自社製品・サービスの不買・不使用を呼びかける。

目的

取引先や顧客を通じて、使用者に間接的な圧力をかける。

例えば、労働組合が「A社(自社)の製品を買わないでください」と一般消費者に呼びかける行為がボイコットです。

なお、ボイコットの中でも、自社の取引先(納入先や仕入先)に対し、自社との取引を停止するようはたらきかける行為(二次的ボイコット)は、取引先の営業の自由を侵害する度合いが強いとして、違法性が問われやすい傾向にあります。

その他の主な争議行為

ピケッティング(Picketting)

ストライキの実行中、組合員が工場の入口や事務所の前などに集まり、スローガンを掲げたり、ビラを配ったりして、他の労働者(組合非加入者や管理職など)の就労を妨げようとする行為です。平和的な説得の範囲内であれば正当な行為とされますが、暴力や脅迫を用いて物理的に就労を妨害する行為は違法となります。

・サボタージュ(Sabotage/怠業)

「怠業(たいぎょう)」とも訳されます。就労はするものの、意図的に仕事の能率を低下させ、生産性を落とすことで使用者に圧力をかける行為です。例えば、機械の稼働スピードを意図的に落とす、不良品を(安全の範囲内で)増やす、などが該当します。ストライキと異なり、労務の提供自体は行っているため賃金は発生しますが、企業の秩序を内側から毀損する行為として、正当性が争われることが多い形態です。

ストライキの発生を未然に防ぐための企業側の予防策

ストライキは、企業にとって甚大な経済的損失と信用の低下を招くだけでなく、一度こじれた労使関係の修復には多大な時間と労力を要します。何よりも「発生させない」ための日頃の予防策が最も重要です。

良好な労使関係の構築

根本的かつ最強の予防策は、日頃からの良好な労使関係の構築に尽きます。従業員や労働組合を「敵」としてではなく、企業の持続的成長のための「パートナー」として尊重する姿勢が不可欠です。

傾聴の姿勢

従業員が何に不満を感じ、何を求めているのかを真摯に聴く姿勢が求められます。

情報共有

経営状況や将来のビジョンについて、説明可能な範囲で透明性を持って共有し、従業員の理解と協力を得る努力が必要です。

コミュニケーションチャネルの確立と活性化

労使間の意思疎通を円滑にするための「場」を整備し、実質的に機能させることが重要です。

団体交渉(Collective Bargaining)

労働組合からの団体交渉の申し入れは、正当な理由なく拒否することはできません(不当労働行為)。交渉においては、単なる「要求の拒否」に終始するのではなく、企業の経営状況を誠実に説明し、双方の妥協点を探る「誠実交渉義務」を果たす必要があります。この交渉のテーブルが機能不全に陥ったとき、ストライキという実力行使につながりやすくなります。

労使協議会(Labor-Management Council)

団体交渉が「交渉(Bargaining)」の場であるのに対し、労使協議会は「協議・相談(Consultation)」の場として設置されることが多いです。賃金や労働時間といった直接的な労働条件だけでなく、経営方針、福利厚生、職場の安全衛生など、より広範なテーマについて日常的に意見交換を行うことで、相互理解を深め、対立の火種を小さいうちに解消できます。

労働協約の締結と「平和条項」

団体交渉の結果、労使間で合意した事項は「労働協約」として書面で締結します。この労働協約は、就業規則や個別の労働契約よりも優先される強い効力を持ちます。

ストライキ予防の観点から特に重要なのが、労働協約に盛り込まれる「平和条項」です。

平和条項とは、労働協約の有効期間中、その協約で定められた事項(例:賃金、一時金)については、その改定を求めてストライキなどの争議行為を行わないことを労使で約束する条項です。

これにより、協約の有効期間内における労使関係の安定が図られます。ただし、協約で定めていない事項(例:人員整理)や、協約の有効期間が切れた後の交渉においては、この平和条項による拘束力は及びません。

ストライキが発生してしまった場合の企業の対処法

どれだけ予防策を講じていても、交渉が決裂し、労働組合がストライキに踏み切る可能性はゼロではありません。万が一、ストライキが発生した場合、企業は冷静かつ法的に正しい対処が求められます。

ステップ1:ストライキ予告への対応(発生前夜)

多くの労働組合は、自らの組合規約や労働協約に基づき、ストライキ突入の数日前(例:48時間前)までに、日時や形態を企業側に「予告」します。

この予告は、企業側に交渉の余地を与える最後通牒(さいごつうちょう)であると同時に、企業側が顧客への影響などを最小限に抑えるための準備期間を与える意味も持ちます。

1.最後の団体交渉

この予告期間は、ストライキを回避するための最後の交渉チャンスです。企業側は、改めて組合の要求内容を確認し、提示可能な最大限の譲歩案を検討し、交渉の妥結を試みるべきです。

2.業務継続計画(BCP)の準備

交渉決裂が避けられないと判断した場合、企業はストライキ中の業務をどのように維持するかを検討します。

  • 顧客・取引先への事前連絡(納期の遅延、サービスの一時停止など)
  • ストライキ不参加者(管理職、非組合員)による業務の代替可能性の検討

ステップ2:ストライキ突入時の対応(発生当日)

ストライキが開始された場合、企業側の対応は以下の2点が中心となります。

1.不当労働行為の厳禁

最も重要なことです。ストライキに参加している組合員に対し、感情的になって以下のような行為を行うことは、すべて不当労働行為(労働組合法第7条違反)にあたり、法的に許されません。

  • ストライキ参加を理由に、解雇・降格・減給などの不利益な取り扱いを行うこと。
  • ストライキの中止をはたらきかけるために、組合員個人を脅迫・懐柔すること
    (例:「ストライキをやめれば昇進させる」)
  • 組合の運営に介入すること(例:「あんな組合幹部は辞めさせろ」と公言する)。

企業は、ピケッティングなどの妨害行為が暴力的で違法でない限り、ストライキの実施を冷静に受け止め、妨害してはなりません。

2.「ノーワーク・ノーペイ」の原則の適用

ストライキは労働者の権利ですが、その対価として、労働者はストライキに参加して労務を提供しなかった時間分の賃金を請求する権利を失います。

これを「ノーワーク・ノーペイ(No Work, No Pay)の原則」と呼びます。

企業は、ストライキ参加者の不就労時間(時限ストライキであればその時間、全面ストライキであればその日数)を正確に把握し、その時間分の賃金を給与から控除(カット)します。これは「制裁」ではなく、労働の対価として賃金を支払うという労働契約の基本原則に基づく、法的に正当な対応です。

ただし、賃金カットの計算方法(例:月給者の日割り計算の方法)について、労働協約や就業規則に定めがない場合は、その計算根拠を明確にしておく必要があります。

ステップ3:業務の維持と代替要員の問題

企業としては、ストライキ中であっても可能な限り事業を継続する努力が求められます。

1.管理職・非組合員による業務遂行

ストライキに参加していない管理職や非組合員が、ストライキ参加者の業務を代替して行うことは、法的に全く問題ありません。

2.代替要員の新規採用・派遣

ストライキに対抗する目的で、新たに労働者を採用したり、派遣労働者を受け入れたりすることは、労働組合の交渉力を著しく弱める行為(争議権の侵害)として、その適法性が厳しく問われます。一般的には、ストライキ期間中のみの代替要員確保は違法と判断されるリスクが高いとされています。

ステップ4:ロックアウト(最終手段)

ロックアウト(Lockout/作業所閉鎖)とは、ストライキに対抗する使用者側の争議行為であり、企業側が労働組合員に対して「事業所から退去し、就労を拒否する」と通告する行為です。

これにより、企業はロックアウト期間中の賃金支払義務を免れます。

しかし、日本において使用者のロックアウトは、労働者のストライキ権に対抗する「防衛的」な手段として、極めて限定的な場合にのみ正当性が認められます。ストライキによって使用者側が予期せぬ著しい打撃を受け、労使間の力の均衡が著しく失われた場合などに限られ、企業側が安易に行使できる手段ではありません。

ストライキは「労使関係の鏡」

ストライキは、それ自体が目的ではなく、あくまで労使間の交渉が行き詰まった際の最終手段です。ストライキの発生は、企業にとって多大な損失であると同時に、「自社の労使関係に深刻な問題がある」という明確なシグナルでもあります。

人事労務担当者に求められるのは、第一に、日常的なコミュニケーションと誠実な交渉を通じて、ストライキという事態を回避する「予防法務」の視点です。

そして第二に、万が一ストライキが発生してしまった場合に、感情的にならず、法的なルール(特に不当労働行為の禁止やノーワーク・ノーペイの原則)を遵守し、冷静に対応する「危機管理」の視点です。

ストライキという対立的な状況を乗り越え、いかにして再び「パートナー」としての労使関係を再構築していくか。そのプロセス全体が、人事労務管理の真価を問う場であると言えるでしょう。

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