human

人事ノウハウ

人事ノウハウ

シフト制とは?3つの種類、メリット・デメリットから労働基準法の注意点まで徹底解説

Shareする!

コンビニエンスストアやレストラン、病院、工場、コールセンターなど、現代社会の多様なサービスは「シフト制」によって支えられています。従業員のはたらき方が多様化する中で、シフト制は企業が柔軟な労働力を確保し、事業を安定的に運営するために不可欠な勤務形態です。

しかし、「シフト制」と一口に言っても、その運用形態は多様であり、人事労務担当者にとっては非常に複雑で、法的なリスクも多く存在します。特に、労働時間の管理、休憩・休日の設定、割増賃金の計算、そして「変形労働時間制」との関係など、労働基準法に関する正確な知識がなければ、意図せず法令違反を犯す可能性もあります。

この記事では、シフト制の基本的な定義から、その主な種類、企業側・従業員側それぞれのメリット・デメリット、さらに人事労務担当者がシフト制を運用するうえで絶対に押さえておくべき法的注意点まで解説します。

シフト制とは何か?

シフト制とは、1日の営業時間が労働基準法で定められた法定労働時間(原則1日8時間)を超える事業所や、24時間稼働が必要な事業所において、複数の従業員(またはグループ)が交代で勤務することにより、事業活動を維持する勤務形態の総称です。

たとえば、朝9時から夜21時まで営業している店舗の場合、一人の従業員が通しではたらくことはできません。そのため、「9時〜17時」の早番、「13時〜21時」の遅番といったように、複数の勤務時間帯(=シフト)を設定し、従業員が交代で勤務します。

シフト制の法的な位置づけ

非常に重要な点として、「シフト制」という言葉は、労働基準法などの法律で定義された用語ではありません。あくまで、実務上の勤務パターンの「呼称」です。

法律の観点で重要なのは、「シフト制」という名称ではなく、その実態が「どのような労働時間制度」として運用されているかです。

たとえば、9時〜18時(休憩1時間、実働8時間)のAシフトと、13時〜22時(休憩1時間、実働8時間)のBシフトがあるとします。この2つのシフトのみで運用されている場合、それぞれのシフトは法定労働時間の範囲内であるため、法的には管理が比較的簡単です。

しかし、多くのシフト制(特に交代制)は、1日の実働時間が8時間を超えたり、特定の週の労働時間が40時間を超えたりすることを前提に組まれています。

このような場合、企業は「変形労働時間制(1ヶ月単位や1年単位)」という法的な枠組みを導入し、労使協定や就業規則で定めることで、特定の期間(例:1ヶ月)内での平均労働時間が週40時間に収まっていれば、特定の日や週に8時間・40時間を超えても法定労働時間内として扱うことが可能です。

人事労務担当者は、「シフト制=変形労働時間制」と短絡的に考えるのではなく、「自社のシフト制を法的に適正に運用するために、変形労働時間制の導入が必要かどうか」を慎重に判断することが求められます。

シフト制の主な種類

シフト制は、その運用実態によって大きく3つの種類に分類されます。

固定シフト制

従業員ごとに勤務する時間帯や曜日が、ある程度固定されている形態です。

たとえば、Aさんは常に「月〜金曜日の早番(9時〜17時)」、Bさんは常に「月〜金曜日の遅番(13時〜21時)」、Cさんは「土日のみの勤務」というように、本人の役割やライフスタイルに合わせて勤務パターンが固定化されます。

  メリット デメリット
従業員 生活リズムが安定し、プライベートの予定が立てやすい 勤務日時の変更が難しく、急な用事に対応しづらい
企業 シフト作成の負担がほぼなく、管理が非常に容易
  • 繁忙期や閑散期に応じた人員の柔軟な調整が難しい
  • 特定の曜日や時間帯に勤務できる人が限られるため、 採用のハードルが上がることがある

希望シフト制

いわゆる「自由シフト制」や「自己申告制」と呼ばれる形態で、パート・アルバイトの多い小売業や飲食業で最も一般的に見られます。

従業員が一定期間ごと(例:2週間ごと、1ヶ月ごと)に、自身の勤務可能な日時を会社に提出し、シフト管理者がそれらを基に全体の勤務表(シフト表)を作成・確定します。

  メリット デメリット
従業員

学校のテスト期間、育児、趣味など、プライベートの都合に合わせてはたらく日時を比較的自由に選びやすい

  • 希望通りにシフトに入れない場合、収入が不安定になる
  • 人気のあるシフトや不人気なシフトを巡って、従業員間で不公平感や対立が生まれやすい
企業

売上予測やイベントに応じて、必要な人員数を柔軟に調整しやすい

  • シフト作成の負担が極めて大きい。 従業員の希望を調整し、過不足なく人員を配置する作業は管理者の大きなストレス源となる
  • 希望者が集まらない時間帯(例:早朝、深夜、土日)が発生し、「シフトに穴が空く」というリスクを常に抱える

交代制シフト

24時間稼働の工場、病院、警察、消防、インフラ施設、あるいは1日の営業時間が長い宿泊施設などで採用される形態です。

あらかじめ設定された複数の勤務パターン(例:日勤、夜勤、準夜勤)を、従業員がローテーションで順番に担当します。下記の「二交代制」と「三交代制」が代表的な形態です。

二交代制

2つのシフトで24時間をカバーする勤務形態です。
12時間拘束となるため、変形労働時間制や休憩時間の調整が必須です。
(例)日勤(8時〜20時)と夜勤(20時〜翌8時)

三交代制

3つのシフトで24時間をカバーする勤務形態です。
(例)早番(7時〜15時)、遅番(15時〜23時)、夜勤(23時〜翌7時)

  メリット デメリット
従業員

大企業や公的機関での採用が多く、比較的雇用や給与が安定しているケースが多い

健康面への負担が非常に大きい。勤務時間帯が定期的に変わるため、生活リズムや睡眠サイクルが乱れやすく、体調管理が難しい

企業

24時間365日の連続した事業運営が可能になる

  • 法律で定められた深夜割増賃金(22時〜翌5時)の支払いが発生するため、人件費コストが上昇する
  • シフト間の引き継ぎが不十分だと、重大なミスや事故に繋がるリスクがある

シフト制のメリットとデメリット(企業・従業員別)

シフト制は、その運用方法によって、企業と従業員の双方に光と影をもたらします。

企業側のメリット

1.営業時間の拡大・24時間対応

顧客の利便性を高め、売上機会を最大化できます。

2.設備・リソースの最大活用

工場の生産ラインや高額な医療機器などを24時間稼働させることで、投資対効果を高められます。

3.需要変動への柔軟な対応

希望シフト制を活用することで、週末の繁忙期には人員を厚くし、平日の閑散期には人員を絞るなど、人件費の最適化が図れます。

4.残業の抑制

変形労働時間制を組み合わせることで、繁閑に合わせて労働時間を配分し、月全体での法定労働時間を超えにくくすることにより、残業代の発生を抑制できる可能性があります。

企業側のデメリット

1.シフト管理の圧倒的な複雑さ

特に希望シフト制におけるシフト表の作成は、パズルのような複雑さを持ち、管理者の多大なリソースを消費します。「AさんはBさんと一緒のシフトを嫌がる」「Cさんは週20時間未満(扶養内)に抑えたい」「Dさんは新人だからベテランと組ませる」といった人間関係やスキルセットまで考慮する必要があり、属人化しやすい業務です。

2.「シフトの穴」という経営リスク

希望シフト制で特定の時間帯に希望者が集まらない場合、あるいは交代制で急な欠員が出た場合、事業の運営そのものが停止するリスクがあります。

3.コミュニケーションの希薄化

勤務時間が異なる従業員同士が顔を合わせる機会が減るため、情報共有の漏れや遅延、チームとしての一体感の欠如(例:「日勤と夜勤の仲が悪い」)といった問題が発生しやすくなります。

4.法的リスクの高さ

後述する労働時間管理、休憩、休日、割増賃金など、労働基準法に抵触しやすいポイントが非常に多く、コンプライアンス違反のリスクが常につきまといます。

従業員側のメリット

1.プライベートとの両立(希望シフト制)

学生が「講義のない日だけ」、主婦(主夫)が「子どもが学校に行っている間だけ」など、自分の都合に合わせてはたらきやすいです。

2.平日の余暇活用(交代制・固定シフト制)

平日の昼間に休みを取得できるため、銀行や役所の手続きがしやすく、また混雑する土日を避けてレジャーや買い物を楽しむことができます。

3.深夜手当による収入増(交代制)

法律で25%以上の割増が義務付けられている深夜勤務(22時〜5時)は、効率的に収入を増やしたい人にとってメリットとなり得ます。

従業員側のデメリット

1.収入の不安定さ(希望シフト制)

自分の希望通りにシフトに入れなかった月は、収入が大幅に減少するリスクがあります。また、閑散期に会社側から「シフトカット」される(勤務日数を減らされる)可能性もあります。

2.心身への健康負担(交代制)

不規則な勤務時間、特に夜勤は、睡眠障害や消化器系の不調、精神的なストレスを引き起こしやすく、長期的な健康リスクが懸念されます。

3.社会的・家庭的な交流の困難

友人や家族が一般的な「土日休み・日中勤務」である場合、休日や活動時間帯が合わず、社会的な孤立感を感じやすくなることがあります。

シフト制導入・運用の法的注意点

シフト制を運用する上で、人事労務担当者が直面する法的課題は多岐にわたります。これらを見落とすことは、労働基準監督署からの是正勧告、追徴金(未払い残業代)、さらには訴訟リスクに直結します。

労働時間管理と「変形労働時間制」

1日10時間、週50時間といったシフトは、原則(1日8時間、週40時間)を超えているため、そのままでは違法であり、超過分は全て割増残業代の対象となります。これを合法的に運用する仕組みが「変形労働時間制」です。

変形労働時間制では、1ヶ月を平均して週40時間に収まっていれば、特定の日や週に法定労働時間を超えるシフトを組んでも、その超過分を「時間外労働」とせずに運用することが可能で、シフト制の多く(特に交代制や固定シフト制)で採用されています。

導入の要件

労使協定または就業規則で、①対象期間、②総労働時間の枠、③各日の具体的な勤務時間(シフトパターン)などを明確に定め、従業員に事前に周知する必要があります。

導入時の注意

変形労働時間制を導入しても、「残業がゼロになる」わけではありません。
あらかじめ定めたシフトの労働時間を超えた分や、変形期間全体(例:1ヶ月)で計算した総労働時間が法定の総枠(例:31日の月なら177.1時間)を超えた分は、引き続き時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。

シフト制と休憩時間の付与に関する注意点

労働基準法第34条(※)では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えることが義務付けられています。

そのため、12時間拘束の二交代制などで、「休憩時間が45分しかない」といった運用は違法です。
「終業時間の間際にまとめて1時間休憩」といった運用も、「労働時間の途中」とは認められず違法となりますので注意しましょう。

※出典:e-GOV法令検索「労働基準法」第34条

シフト制と法定休日の確保に関する注意点

労働基準法第35条(※)では、労働者の健康と生活を保護するための最低基準として、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の「法定休日」を与えなければならないことになっています。
シフト制の運用においては、下記のようなケースに注意しましょう。

※出典:e-GOV法令検索「労働基準法」第35条

夜勤の「明け」は「休日」ではありません
たとえば、月曜22時〜火曜7時までの夜勤を終えた火曜日の朝以降は「明け」と呼ばれる休みですが、これは法律上の「休日」ではありません。暦日で0時〜24時までの丸一日の休みを与えて初めて「休日」となります。

連続勤務の上限
4週4休制を採用した場合、理屈上は「24日連続勤務→4日連続休日」も可能に見えますが、行政通達では「好ましくない」とされており、従業員の健康管理上、極めて危険です。連続勤務日数には細心の注意が必要です。

割増賃金の正確な計算

シフト制では、3種類の割増賃金が同時に発生する可能性があり、計算が複雑になりがちです。

  1. 時間外割増(25%以上):法定労働時間を超えた労働
  2. 休日割増(35%以上):法定休日に働いた場合
  3. 深夜割増(25%以上):22時〜翌5時の深夜帯に働いた場合

割増賃金計算においては、以下のような落とし穴に注意が必要です。

深夜+時間外
深夜帯(22時〜5時)かつ、法定労働時間を超える時間外労働が重なると、
割増率は合計で50%以上(25% + 25%)となります。

休日+深夜
法定休日に深夜帯で勤務した場合、割増率は60%以上(35% + 25%)に上昇します。

変形労働時間制を導入している場合
時間外労働の判定方法が通常のルールと異なるため、
給与計算ソフトが制度に正しく対応しているかの確認が不可欠です。

労働条件の明示義務

労働基準法15条(※)では、従業員を雇う際に「労働条件を書面で明示する」ことが義務づけられています。勤務時間・休憩・休日・賃金など、労働に関わる基本的な条件は必ず労働条件通知書に記載しなければなりません。

シフト制の場合、「勤務時間はシフトによる」といった曖昧な記載だけでは法律上不十分です。
「早番 9:00〜17:00」「遅番 13:00〜21:00」など、実際に働く可能性がある始業・終業時刻のパターンをすべて明示する必要があります。これは厚生労働省のガイドラインでも明確に示されています。

※出典:e-GOV法令検索「労働基準法」第15条

シフト決定・変更時のルール

企業がシフト表を確定し、従業員へ通知した段階で、その日時に働くことについての労働契約が成立したとみなされます。このため、確定シフトには法的拘束力があります。

確定後のシフトを会社都合で減らす「シフトカット」は、一方的な労働契約の不履行となり、労働基準法26条に定める「休業」に該当します。企業は、対象となる従業員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。

また、確定したシフトを会社が一方的に変更すること(例:早番→遅番など)は原則認められていません。従業員本人の同意が必要です。シフト制であっても、会社が自由に変更できるわけではない点は注意が必要です。

年次有給休暇の付与

パートやアルバイトであっても、6ヶ月以上継続勤務し、その間に全労働日の8割以上出勤していれば、労働基準法39条に基づき年次有給休暇が付与されます。週の所定労働日数が少ない場合は、比例付与のルールが適用されます。

「パートだから有休はない」という運用は明確な法律違反です。シフト制であっても、有休取得の権利は必ず付与されます。

また、有休が10日以上付与される従業員には、企業側に「年5日の有休を取得させる義務」があります(時季指定義務)。これはフルタイムに近いパートや希望シフト制の従業員にも適用され、シフト制だからといって例外にはなりません。

シフト制は「高度な労務管理」の表れ

シフト制は、現代の多様なサービスを提供する上で欠かせない勤務形態であり、多くの従業員に柔軟なはたらき方を提供しています。しかしその一方で、従業員の健康や生活に与える影響が大きく、企業側には極めて高度で複雑な労務管理が求められます。

単に「シフトの穴を埋める」という日々の運用に追われるだけでなく、以下の3点に戦略的に取り組む必要があります。

1.コンプライアンスの遵守

変形労働時間制の適切な導入、休憩・休日の確保、割増賃金の正確な支払い。

2.従業員の健康と生活への配慮

無理のないシフトローテーション、夜勤担当者への定期的な健康診断、休暇の取りやすい環境づくり。

3.管理者の負担軽減

シフト管理システムの導入による効率化、公平なシフト作成ルールの策定。

これら3つのバランスを戦略的に取ることこそ、シフト制を成功させ、従業員のエンゲージメントを高め、持続可能な事業運営を実現する鍵となります。

御社の業務に副業社員を検討してみませんか?

今回は、HR担当者が押さえておきたいポイントとして、シフト制についてご紹介しました。

シフト制は、多様なはたらき方に対応しながら生産性を維持するために有効ですが、適切な設計と運用管理が不可欠です。従業員の負担が偏らないよう配慮し、法令遵守を踏まえた運用を続けることで、安心して働ける環境を実現できます。

また、シフト管理の改善や業務設計の見直しには、外部視点を取り入れることも効果的です。御社の運用改善に、副業人材の活用を検討してみませんか。

lotsfulでは、業務設計や労務領域の改善に強いプロフェッショナルをご紹介しています。ぜひ一度ご相談ください。

副業タレントBOOK〜企業を動かす”社外のエース”紹介集
  • マーケ、新規事業開発、広報、DXなどで活躍する12名のプロ人材を掲載
  • スキル・実績と「担当者のおすすめコメント」で副業人材の解像度が上がる!

資料をダウンロードする

Shareする!

close close

lotsfulに興味をお持ちの方はこちら