2021.7.9

【セミナーレポート】カゴメ・NEC・パナソニックの担当者が本音で語る!新規事業における人材課題の解決法とは。


「VUCA」とも言われる予測不可能な時代を迎えた今、既存事業以外の未知の領域=新規事業に挑戦する大企業が増加しています。しかしながら、新規事業は「千三つ」(1000分の3の成功確率)と表現されるほど成功が難しく、失敗がつきものです。
――そうした中、lotsfulでは新規事業に挑むビジネスパーソンに向け、「大企業×新規事業開発のトライ&エラー」をテーマにしたオンラインセミナーを実施しました。
登壇したのは、カゴメ株式会社でスマートアグリ事業部の事業責任者を務める堤川緩氏、日本電気株式会社で歩行センシングインソールを始めとするヘルスケア領域の事業開発を主導する中野裕明氏、パナソニック株式会社アプライアンス社の事業開発センターでIoTコーヒー焙煎機などを開発する「The Roast(ザ・ロースト)」プロジェクトの井伊達哉氏の3名です。

新規事業創出という正解のないミッションの中でも、特に各社が共通して抱える「人材課題」にフォーカス。大企業ならではの苦労話なども交え、人材に関する課題解決のヒントが語られました。本記事ではlotsful代表の田中みどりがモデレーターを務めた、本セミナーの模様を詳しくレポートします。

【ゲストスピーカー】

■カゴメ株式会社 スマートアグリ事業部 堤川 緩 氏
日本電気株式会社に新卒入社後、一貫して海外向け事業のマーケティング、事業開発を担当。 2011年より5年間NECヨーロッパに出向し、EMEA担当としてモバイルキャリア向けのインビルディングネットワーク事業を軌道に載せたのち、海外起点の社会ソリューションの新規事業開発担当として農業事業の事業立ち上げを実施。フロントでの事業開発及び、パートナーアライアンス責任者としてカゴメ協業を実現し、カゴメが事業主体となるスマートアグリ事業部を設立。2020年4月よりカゴメに参画し、事業責任者として、戦略策定や組織構築、カスタマーサクセスに従事

■日本電気株式会社 コーポレート事業開発本部 中野 裕明 氏
2006年新卒でNECに入社し、金融機関向けの新規ソリューション開発に従事。2009-11年、野村證券に出向し店舗サービス開発やiPad導入を推進。2015年よりAI関連やヘルスケア領域の新規事業開発を担当。カーブアウトによるdotData, Inc.設立やスタートアップとの共創活動・業務資本提携をリード。2019年より「目に見えない健康状態の可視化」をテーマに第一弾として「歩容を可視化」する製品(https://jpn.nec.com/wellness/index.html)を開発し、事業パートナーとの新サービス創出に挑戦中。

■パナソニック株式会社 アプライアンス社 事業開発センター 
The Roast プロジェクト 事業リーダー 井伊 達哉 氏
パナソニックにて、DVDやデジカメの市場立ち上げ時の海外マーケティング、その後デジタル機器の知的財産権(特許ライセンス)業務などの経験を経て、2014年からは新規事業の創出を担当する現部署のアプライアンス社事業開発センターに異動。新規事業の一つであるコーヒー焙煎サービス「The Roast(https://panasonic.jp/roast/)」プロジェクトに従事し、2017年から事業をスタート、現在はその事業リーダーを務める。

【モデレーター】

■lotsful 代表 田中みどり
2012年新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。 IT・インターネット業界の転職支援領域における法人営業に従事。2016年10月より新規事業であるオープンイノベーションプラットフォームeiicon(現:AUBA)の立ち上げを行う。Consulting・Salesグループの責任者として従事し、 サービス企画、営業、マーケティング、イベント企画、経営管理などを幅広く担当。2019年6月より副業マッチングサービス「lotsful」をローンチ、代表を務める。

大企業において、新規事業をスタートさせた理由とは

田中 : はじめに、みなさんが新規事業を開始したキッカケを教えてください。

NEC・中野氏 : NECでは、成長事業としてヘルスケア・ライフサイエンス事業に注力することを先般発表しています。従来から、ヘルスケア領域の具体的なサービスに関して「どうすれば当社らしさを出せるのか?」を検討する中、オープンイノベーションの一環としてスタートアップ企業との技術交流会を開催したのです。

このような社外との交流会を通じて、NECの技術の使い方がたくさんあることに気づき、それがキッカケで新規事業である”歩容を可視化”する製品開発をスタートさせました。

パナソニック・井伊氏 : 私が所属している「事業開発センター」は、新規事業を生み出す部署なのですが、そこで調理家電とサービスとを組みわせて、新しいことができないかと検討していました。リサーチをする内にコーヒー産業が盛り上がっており、”焙煎”という分野はどの企業もほとんど手をつけていないことを発見したのです。

そこで、焙煎に注目し、コーヒーの専門家などにもヒアリングをする中で手応えも感じました。それから、面白い焙煎機を作っているイギリスのスタートアップ企業に相談し、ハードウェアの課題解決に目処がつきました。これなら、社内で一から始めるよりも短期間で事業を進められると考え、コーヒー焙煎サービス「The Roast」を立ち上げました。

カゴメ・堤川氏 : カゴメでは新しい事業に挑戦するため、「自社の既存技術をどう活用するのか」というテーマについて検討していました。その中で、グローバルな課題に対して、海外の現地側から事業を作り出して解決するというプロジェクトがあったのです。そこで、人口増加による課題として挙がる「エネルギー、水、食糧」を追いかけることになりました。当時、私がヨーロッパにいたこともあり、現地のテック企業などをリサーチしながら、エネルギー、水、食糧に関わる農業の新規事業「CropScope」をスタートしました。

スモールスタートから、事業を拡大

田中 : では次に、みなさんそれぞれの新規事業をどのような体制でスケールさせたのかについてお聞かせください。

カゴメ・堤川氏 : 新規事業で必要なのは、「限られた人員それぞれが独立し、動くこと」です。さらに、ビジネス担当や開発担当、運用担当、デザイン担当と異なるポジションの人がいることも重要です。各ポジションが業務を行いつつ、作業量が増えてきたら人を増やしていく流れになります。

最初は少人数で小さくスタートさせますが、事業を大きくしていくためには、本社のコア技術と結びつけることが必要不可欠です。日本の本社にある研究開発や農業部門が当時はバラバラだったのですが、それらを統括して事業を進める流れができたのも、海外で事業を起こした私たちにとっては事業拡大の良い流れになりました。

事業立ち上げ時から三倍くらいの組織になった後は、サービスをより大きくするために、運用まわりなどにもリソースを割くようにしていきました。コロナ禍で海外出張も難しいので、外部に委託することも多いですね。また、ヨーロッパで新規事業を展開する中で、デザイン思考も欠かせません。社内にはそのような専門家がいないので、不足している人材はlotsfulを活用して補いました。

田中 : 中野さんはいかがでしょうか?

NEC・中野氏 : 堤川さんと同じように最初は小さく始めながら、仮説検証を繰り返し、人材が足りない部分は社内外で集めていきました。実は、事業スタート時は私と若手社員の2名だけだったのです。

インタビューやリサーチを行いながら、実際に仮説検証していくのですが、試作機に関してはハードウエア・アルゴリズムを提供しているグループ会社や研究所の力を借りて製作し、価値検証を実施しました。コアメンバーは社内で固めながら、エンジニアもデザイナーもミニマムの人員で、外部の力も利用しながら進めていきましたね。

価値検証やインタビューから次のフェーズに移るため、クラウドファンディングを活用しながら、製品コンセプトを発信していきました。このタイミングでヘルスケア領域の専門家や靴・インソール部分を製造委託できる外部パートナーも探していきました。ヘルスケアや靴の専門家は社内にはいないので、そこは外部の力を借りながら、製品全体としての品質保証は社内で担保するイメージですね 。

田中 : 井伊さんの場合はいかがですか? 

パナソニック・井伊氏 : まずはコーヒー豆を扱う商社に誰か組める人はいないかヒアリングをし、専門家を数名紹介してもらいました。しかし、協力してくれる方がなかなか見つかりません。そんな時に、ロースター(焙煎士)の世界大会で優勝経験がある後藤直紀さんが事業に興味を持ってくれ、協力してもらえるように。焙煎機はイギリスのベンチャー企業の製品をライセンス契約し、使用できるようにしました。

焙煎技術に関するエキスパートが社内にいないので、他部署に協力を仰ぎながら、ライセンス契約した機器を改良。その間も様々な面で、後藤さんには相談・協力いただきました。販売網についても、自社のマーケティング部門と議論を重ねながら構築。コーヒーの専門的な質問に対応できるCS部隊も独自に組成しました。

新規事業における各社の人材獲得術

田中 : 新規事業を推進する上で、メンバー集めも大変かと思います。こうした人材の課題はどのように解決していきましたか?

カゴメ・堤川氏 : 私の場合は海外で新規事業をスタートさせたので、現地での人材獲得に注力しました。海外では色々な会社で経験を積むのが当たり前なので、いかにスキルがマッチする人材を見つけるかが重要です。そのため、ジョブディスクリプション(職務記述書)の書き方は注意しましたね。あとは面接でしっかりと人物を見極められるようにしました。

NEC・中野氏 : 社員を巻き込む方法として社内公募もあるので、それを利用しつつ、想いに共感できるメンバーを募集しました。また、すでに社内公募に登録している社員もいますので、スキルを見ながらこちらからもオファーを出すことも可能です。社内公募という手段であっても、実際にジョインしていただくには異動する必要がありますので、事業の人件費が増えてしまいます。

「合わなかったらまた異動してもらう」ということは難しいので、中途採用と同じように社員で足りない部分を補強する際は一定のリスクがあります。そういった点を考慮すると、lotsfulのような副業人材の活用が役に立ちます。一度、副業として当人の働き方を見てから、長期的にメンバーとしてジョインしていただくかを判断できるのはメリットだと思います。

田中 : 人を増やすにしても予算が厳しかったりどのような人材がフィットするのかというのが不明瞭なうちは、外部の人材を活用して試しながらの方が、新規事業には合っているということですね。

大企業イントレプレナーは、積極的に社内リソースを活用せよ

田中 : ここからはセミナーの視聴者の方からの質問を交えつつ、話を進めていきたいと思います。「新規事業において、人を巻き込む際に大切にしていることは?」という質問がきていますが、いかがでしょうか。

カゴメ・堤川氏 : 外部の人に協力してもらう場合は、足りない部分を切り出して前に進めてもらっています。専門家にお任せしますので、目標を握って、納期を決めてアウトプットを出してもらうといった流れですね。イメージが違う部分は、コミュニケーションですり合わせていきます。

納品物に関しては”良さ”を消さないために、なるべく手を加えないようにしています。また、彼らの取り組みが社内にも影響を与えてくれますので、良い部分は吸収できるように意識しています。

田中 : 次の質問ですが、「新規事業立ち上げからのコアメンバーはそのまま続いているのでしょうか?それとも入れ替わりがあるのでしょうか?」という質問です。

NEC・中野氏 : 多少の入れ替えはありますし、新しい人材も入ってきています。フェーズが変わるとビジネスの解像度が上がるので、必要な人材も明確になりますし、人材像自体も変化してきます。そこで、よりフィットする人を外部から集めたり、社内でもより良い場所に移ってもらったりと新陳代謝を行うようにしています。

当社の場合はドメインという単位で複数の新規事業開発プロジェクトがあります。そのため、例えば0→1(ゼロイチ)を得意とする横軸型の社員もいますし、ヘルスケアの知見を深めたいという縦軸型の社員もいるので、そうした希望や適性を考慮しながら組織運営を行なっています。

田中 : 「大企業においてイントレプレナーとして活動するメリットは?」という質問もきています。最後にみなさんの考えをお聞かせください。

パナソニック・井伊氏 : 社内に様々な分野のエキスパートがいるので、その安心感がありますね。全ての新規事業が当たるわけでもないので、起業するのはリスクもあるでしょう。大企業だと、新規事業が外れても次のチャンスがあります。ただし、その考えだと攻めの姿勢がなくなる可能性があるので、注意は必要ですね。

カゴメ・堤川氏 : 企業に所属していると、同じ想いを持った仲間が近くにいることが珍しくありません。大企業でも新規事業に挑戦したい社員は多くいますので、悩みを共有できる点はメリットですね。

もう一点のメリットは、充実した社内リソースです。起業したらあらゆるポジションの人材を集める必要がありますし、人件費や固定費も気になります。しかし、大企業なら経理や法務といったバックオフィス系の人的リソースがありますので、新規事業の初速が違ってくるのではないでしょうか。

NEC・中野氏 : 大企業のメリットは、営業網・顧客チャネルがあることも挙げられます。これらを作り上げるのは、スタートアップだと非常に時間が掛かると思います。また、名の知れた企業は信頼感もありますので、他社とのアポも取りやすいと感じます。先人が培ったアセットが多くあるので、それらを上手く利用できれば新規事業がスケールしていくと思います。

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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