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インタビュー

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自分の得意なことで、喜ぶ相手を見つけにいこう。パワポ芸人・トヨマネさんが語る「世の中の解像度を上げる副業のススメ」

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今回、「lotsful magazine」がお話を伺ったのは、「パワポ芸人」の異名を持つ、デザインコンサルティング企業・シリョサクの代表 豊間根 青地氏(以下、トヨマネさん)です。

トヨマネさんは大学卒業後、新卒でサントリーホールディングスに入社し、通販のCRMや広告領域の仕事を経験。趣味ではじめたPowerPoint(パワポ)によるスライド作成がX(旧Twitter)で大きな反響を呼び、本業の傍らプレゼン資料作成代行やセミナー登壇をはじめとした副業をスタートさせました。学生時代から続けてきたと言うXのフォロワー数は12.1万人以上に(2024年2月現在)。

「自分のスキルで稼げる力を身に付けたい」「いつかは起業したい」。そう考えていた学生時代を経て、2022年にサントリーを退職したトヨマネさんは、副業を本業にするチャンスを掴み、シリョサク株式会社設立に至ります。今回は、副業をはじめたきっかけから具体的な活動内容、そしてこれから副業をはじめる方へのアドバイスまで、幅広くお話を伺いました。

シリョサク株式会社 代表取締役 
豊間根 青地 氏

1994年東京都生まれ。東京大学工学部卒。サントリーで働く傍ら、趣味のPowerPointで作成したスライドがSNSで反響を呼ぶ。「くだらないけど、ためになる」をモットーに、スライド作成に役立つノウハウやあまり役立たないネタ画像等を発信。現在は、シリョサク株式会社を運営。著書に『秒で伝わるパワポ術』(KADOKAWA 2021)『秒で使えるパワポ術』(KADOKAWA 2022)。

きっかけは“バズりたい”という想いから。パワポ芸人としての副業をスタート

トヨマネさんは新卒でサントリーホールディングスに入社されています。そもそも同社ではどのような仕事をされていたのでしょう?

トヨマネさん

新卒で配属されたのは、サントリーウエルネスというサプリメントを扱うグループ会社のお客様センタ-における企画部署でした。オペレーターさん向けに新商品の研修やルール周知をしたり、いわゆるテレアポのKPI管理を担ったり。その後、リスティングをはじめとした広告運用の部署に異動し、そこでも経営層向けにパワポ資料を作ることが多々ありましたね。

では、その文脈でパワポに目を付けたのでしょうか?

トヨマネさん

そもそも学生時代からX(旧Twitter)を利用していて、息を吸うように他愛もないツイートをする日々を送っていました。「バズりたい」と考え出したのもちょうどそのころ。テキストのみでウケを狙いに行くのは限界があり、それなら画像も添付しようという考えに至ったのです。

本当はIllustratorで作りたかったのですが……何しろお金がかかります。ならば学生時代から部活動の勧誘用チラシを作ったり、サントリーに入社以降も提案資料を作ったりと、何かとお世話になっていたパワポで作ってみてはどうか?と考えたのがきっかけでした。

バズりたいという気持ちでやっていた趣味が、副業に変わるきっかけは何だったのでしょう。

トヨマネさん

転機となったのは、2020年のころ。世の中はコロナ禍にあり、当時のTwitterには外出自粛を余儀なくされ、暇を持て余した人々が大勢集まっていました。そのタイミングで「もし桃太郎がイヌ・サル・キジにお供になってくれるようプレゼンしたら」というツイートが反響を呼び、1.8万件のいいねを獲得したのです。

1.8 万いいねを獲得した「もし桃太郎がイヌ・サル・キジにお供になってくれるようプレゼンしたら」の投稿(右図)。トヨマネさん(@toyomane)のX(旧Twitter)フォロワー数は12.1万人以上(2024年2月現在)。
その手ごたえを機に、副業としての活動をスタートさせるに至ったのですね。

トヨマネさん

そうですね。それを皮切りに「提案資料を5万円でブラッシュアップしてほしい」というものから「スタートアップ企業向けにセミナーを開催してほしい」といったものまで、さまざまなDMが届くようになりました。

もともと「自分の力で稼げるようになりたい」という想いがあり、学生時代にはクラウドファンディングでリアル脱出ゲームの企画を出したこともありました。ですので、副業や起業といった選択肢は自分にとって自然なことだったのだと思います。副業としてやっていくのなら、肩書きがあったほうがいい。どうせならキャッチーなものを、と思い付いたのが「パワポ芸人」という肩書きです。

“得意”をとことん追求した結果、大手企業を退職

副業をスタートさせたトヨマネさんですが、本業との両立で工夫されていた点はありますか。

トヨマネさん

工夫した点と言うほどではありませんが、サントリーは副業がOKの企業だったので、ちゃんと申請した上で大手を振って活動することができました。また幸いなことに、副業をしている私に対しネガティブな反応をする方は誰一人いませんでした。むしろ「Twitterみたよ!」「社内でも勉強会開催してよ」といった声掛けをいただくなど、周囲の方に背中を押していただくことも多々ありました。そんな声を受け、実際に社内で3~4回勉強会を開催する機会もいただきました。

副業での経験が、本業に活かされたことはありましたか。

トヨマネさん

ありましたね。たとえば、サプリメントをはじめとした通信販売をメイン事業とするサントリーウエルネスには、主にシニア世代のユーザーをターゲットにした商品広告をつくる部署がありました。シニア世代に向けた言い回しなどのクリエイティブは特殊で、そのナレッジ・ノウハウが担当者によって属人化しているという課題がありました。そこで、広告制作の現場で活躍している方にインタビューを実施し、クリエイティブのエッセンスを事例と共にパワポにまとめ、ナレッジブックを作る機会をいただきました。それは未だに現場で使われているようですね。

振り返ってみて、副業を成功に導いたヒントはどこにあると思いますか。

トヨマネさん

コミュニティを飛び越える、ということが鍵になると思います。私は以前から「知らない世界を知る」のがけっこう好きな人間で、Facebookの友達の数も4桁を超えるような比較的社交的な人間です。人と関わるのが苦手な方も多いと思いますが、副業を成功させるためには知らない世界に飛び込む勇気も一定程度必要です。簡単なことから始めればいいと思います。

たとえば、オンラインコミュニティに入ってみたり、旅行へ行ってみたり、普段行かないお店に一人で立ち寄ってみたり。大事なのは、場所と人をルーティン化させないことです。私自身、そんな行動の積み重ねがあり、起業という選択肢に至ったのだと思います。

トヨマネさんは2022年に約5年務めたサントリーを退職されました。副業を継続するのではなく、退職そして起業という道を選んだ理由を教えてください。

トヨマネさん

現在、シリョサクの取締役を務める木下(木下翔太氏)との出会いがターニングポイントとなりました。当時、木下は既に資金調達やIR、ビジネスコンテンツ等のプレゼン資料制作支援で実績を積んでいました。木下の仕事は、あくまでお小遣い程度の副業として「見た目を整える」ためのパワポ資料を作っていた自分からすると、想像もつかないような高いレベルの課題解決をしていました。「そんな世界があるのか」と視野が広がり、衝撃を受けたことを覚えています。彼と出会っていなければ、今も私はサントリーに在籍していたのではないかと思います。

自分の得意なことで、喜ぶ相手を見つけにいこう

トヨマネさんの今後の目標を教えていただけますか。

トヨマネさん

2つあります。まず1つ目はプレゼン資料を通じて、知的生産系の仕事をする人たちの“ビジネス基礎体力”を鍛えること。パワポって“スキルの総合格闘技”だと思っていて、ロジカルシンキング、クリティカルシンキング、ビジュアライゼーションスキル、ファシリテーションスキル…。こうした色んなスキルがないと、いい資料を作ることはできません。大きなお金や人を動かすシーンで、プレゼンは必要不可欠です。そんなときに、私たちの出番があります。抽象度の高い説明では、実際のビジネスシーンでどう活かせばいいか分かりません。だから、大切なのは敢えて「しょせんただの道具」であるプレゼン資料を使うこと。身近な道具を使うことで、ロジカルシンキングってこういうことか、こうすればいいんだ、と腑に落ちてもらうことを目指しています。

世の中に資料を的確に作る人がもっと増えたら、ビジネスシーンにプラスの影響がもたらされそうですね。もう1つの目標は?

トヨマネさん

もう1つ目は“環境変化ギャップ民”を救うことです。就職や転職、さらにはM&Aや部署異動、昇進といったタイミングで周辺環境がガラリと変わり、これまで上手くできていたことができなくなり自己効力感が下がってしまう人って少なからずいると思うんです。「営業畑一筋で歩いてきて、いきなりマーケに異動。右も左も分からない…」「M&Aで合併したら仕事の進め方も文化もまるっきり違う!共通言語がないせいでコミュニケーションコストが大量発生…」。そんな現場の課題、その現場で自己効力感が下がってしまっている人を、弊社の研修やeラーニング、プレゼン資料制作代行を通じて救いにいきたいと思っています。

ありがとうございます。最後に、これから副業を始める人に一言アドバイスをお願いします。

トヨマネさん

お金ももちろん大切ですが、それ以上に自分の得意なことを通じて、誰かが喜ぶ体験を増やしていくことにコミットした方がいいと思っています。自分が得意なことで喜ぶ人は誰か?それをより多くの人に喜んでもらうためにはどうすればいいか?そういったことを考え続けたほうが、中長期的に見ていい結果をもたらすからです。私自身、パワポ芸人としての活動をはじめたのも趣味の延長線でしたし、むしろ何故これでお金をもらえるんだろう?くらいの気持ちを持っていましたから。

本業ひとつだとどうしても視野が狭まりますが、世界はもっと広いはず。副業を通じて、まだ知らないことを知り、結果として世の中の解像度が上がるのは本当におもしろい体験だと私は思っています。まずは自分が今いるコミュニティを飛び越えてみる、という一歩から始めてみてもいいのかもしれませんね。

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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