副業をきっかけに漫画『おひとりさまホテル』の原案者へ。まろさんが実践する本業×副業を楽しむ働き方
今回、「lotsful magazine」がお話を伺ったのは、漫画『おひとりさまホテル』の原案者として知られる、まろさんです。
まろさんはメディア企業でマーケティング・宣伝を担う傍ら、副業で「おひとりさま。」という、ひとり時間を楽しむメディアを運営しています。
物心ついたときからひとり行動が好きで、”ひとり時間の楽しさ”をもっと多くの人に伝えたいという思いから、個人でメディアを設立。2017年の活動開始以降、Instagramのフォロワー数は5.4万人以上に(2023年2月現在)。
また、Instagramが漫画家・マキヒロチ氏の目にとまり、まろさんが原案者として『おひとりさまホテル』の連載がスタートするなど活躍の場は広がり続けています。
副業をはじめたきっかけから具体的な活動内容やそのやりがい、本業と両立するための工夫など、「副業に挑戦したい」というビジネスパーソンにとって参考になる情報をお聞きしました。
おひとりプロデューサー
まろさん
ひとり時間メディア「おひとりさま。」を運営。
「ひとり時間を楽しく」をモットーに、ひとりで行きたいお店やホテルの情報を発信する。本業では、メディア企業に勤務し、マーケティングや宣伝を担当。
物心ついたときから“ひとり行動”が大好きだった
まろさん
きっかけは、新入社員時代に遡ります。当時、第一志望だった会社に入社が決まり、大喜びしていたのも束の間。告げられた配属先は自分が希望していたものではなく、名前を聞いても何をするか分からないような部署でした。
あまりクリエイティブなことが問われる業務でもなく、なんとなくこのまま無思考で働き続けているとまずい気がすると思ったことが副業のきっかけです。働き方においても余裕のある部署で、どうせ時間がたくさんあるのなら、自分がやりたいと思うことを別の軸でできないかな?と考え、たどり着いたのが、おひとりさまというコンセプトのメディアを立ち上げることだったんです。
まろさん
もともと、ひとりでいろいろな場所に出かけるのが大好きでした。「ひとりだからこそ行きたいところや、できることがある」と常々思っていたので、「ひとり時間」をテーマに何か発信してみようと考えたのです。
ここが結構誤解されがちなのですが、わたしが目指している「ひとり時間」の世界観は、「ずっと友達を作らず一人でいる」という孤独な意味合いのものではありません。周囲と関わり合いながらも、ひとりの時間を大切にして楽しんでいくという世界観です。この世界観に共感してもらえる同年代の女性中心に、まずは情報を届けていきたかったので、発信するメディアとしてInstagramを選びました。
まろさん
どちらも「プロダクトの価値をどう伝えていくか?」というのが共通のテーマです。そのため、誰をターゲットにどう伝えていくかといったコンセプト設定の仕方や、どんなコンテンツを作っていくべきかのコミュニケーション設計などは、本業・副業での知見が相互に活きていると感じます。
また、副業で自らメディアを作ってみてはじめて、プロダクトを作っている側の思いも汲み取れるようになりました。こんなに手塩にかけて作ったものなんだから、世界観を汚さずにしっかり発信してほしいという気持ちがよく分かったのは良かったですね。
晴れて副業がスタート。まずはSNSの見せ方をプロから学んだ。
まろさん
昔から、誰かに「これいいよ!」と伝えることが好きだったとは言え、いざSNSでとなると“見せ方”がまったく分からないところからのスタートでした。当時は周囲にSNSを真剣にやっている人がいなかったので、個人コンサルのサービスに登録して、いわゆるInstagramのインフルエンサーの方から直接アドバイスをもらいました。
その時いただいたアドバイスは、「コンセプトはいいけど、見せ方が間違っている」というシンプルなもの。そこから、 写真の撮り方や、画像の文字入れなどを工夫し、コンセプトをどうアウトプットして、ターゲットに伝えていくべきなのか、試行錯誤しました。
まろさん
そうですね。副業と本業の忙しさが予期せず同時に来ることがあるので、そのときは死に物狂いでやりきっています(笑)。 ただ、部署が変わって忙しくなった際は、一時的に本業に軸を置いて活動していたこともあり、そんな風に自分でバランスを取りながらやっていますね。今はありがたいことに、本業を続けていけるか不安になるくらい副業も充実してきていて、進路についてはちゃんと考えなくてはいけない時期に入っているなと感じています。ただ、アカウントを始めた当初は、うまくいくかも自分が続けられるかも分からないまま会社を辞めるのはリスキーだなという考えもあり、まずは本業をしっかりこなしながら、試しにやってみようという気持ちでのスタートでした。
漫画家マキヒロチさんの目に留まり、漫画化が決定。
まろさん
私自身、実はもともと漫画はあまり読まないタイプで。しかし当時、同僚から「絶対に価値観が合うから読んでみて!」と強く勧められたのがマキヒロチさんの『いつかティファニーで朝食を』という作品でした。いざ読み進めてみると、“朝食を食べる”というライフスタイルを物語の中で発信することができるんだ、と感銘を受け、改めて漫画やコンテンツの力ってすごいんだなということに気づかされました。
「いつかマキ先生と何かでご一緒できるといいな」なんてひそかな夢を抱いていたら、たまたまマキ先生から「おひとりさま。」のInstagramアカウントをフォローしていただき、それだけでもびっくりだったのに、ある日メッセージをくださったんです。しかも、打ち合わせを経て、「おひとりさま。」を原案に漫画を描いてもいいですか?と打診をいただくことになり…!そこから話が進んでいったのですが、私の投稿を見てイメージを膨らませてもらえたなんて、夢のようでした。
この時に思ったのは、SNSってこういうミラクルが起こりうるから面白い、ということ。発信し続けていればこんな奇跡も起こるんだと実体験を持って感じましたね。そもそも同僚から勧められて漫画を手にしていなかったら…と思うと、それも含めてなにかの縁だったのかなと思います。
まろさん
そこまで大きく工夫している点はないのですが、強いて言うのであれば、大きなタスクは両方こぼさないように気を付けているということ。どちらかにのめりこみすぎてバランスを崩さないよう、意識しています。どちらも中途半端になるのは一番よくないので、どちらもフルでできるくらいの余力は残しておきたいなと思っています。
ただ、「この時間は仕事で、ここから先は自由時間」という明確な切り替えはしておらず、敢えて仕事とそれ以外の時間の区切りをはっきりさせないというのもポイントなのかなと思ったりします。副業と言っても私自身が「やりたいこと」ですし、趣味の延長でやっていることなので。
まろさん
こだわりと言いますか、PR案件は基本やらないようにしています。と言うのも、私自身こだわりが強く、自分が行きたいホテルも多すぎるからです。 ただ、いわゆる企業からインフルエンサーへの仕事の打診は、PR案件が主流なので、マネタイズするには自分で企画しないといけない、と思いました。
そこで思いついたのが、おひとりさま向けプランを飲食店やホテルとタッグして作ることでした。ひとりでやってみたいけれど、事業者側がウェルカムなのかどうか分からず踏み出せない…という声もフォロワーさんから多くいただいていたので、そんな人たちを後押しできるなと思ったんです。
当時、観光業関連の代理店の方と仲良くなり、こんなことをしたいんですという思いを伝えたところ、ホテルさんと一緒に実現することができて。それからは、自分で事業者側にダイレクトにアプローチして、営業活動を進めていったりもしました。
まろさん
手ごたえを感じたのは、“おひとり軽井沢プラン”。軽井沢というと避暑地のイメージが強く、ホテル側にとっても冬場はどうしても閑散期になってしまうという課題がありました。それを逆手にとり、ひとりの場合ならむしろ閑散期のほうが空いていてゆっくり過ごせるのではないか?と考えたのです。
そして「冬の軽井沢」を売りに、ひとりでゆったり過ごそうということを訴求して販売したところ、たくさんの予約が入りました。しかも、フレキシブルに予定を組めるおひとりさまならではで、平日の予約がとても多く、ホテル側もすごく喜んでくださいました。この事例は特に、ひとりならではの特徴を相互にメリットのある形で販売できた好事例だったのではないかと思っています。
本業+副業の両軸だからこそ得られる相互メリットもある。
まろさん
実は先ほどもお話ししたようにめちゃくちゃ悩んでいるのですが(笑)、今の業界でマーケティングの道を究めるか、別の業界にチャレンジするのもアリだと思っています。ただ、基本的には本業+副業の2軸でやっていくことはこの先も続けようかと思っています。両方やることの相互メリットもありますし、どちらか1つがうまくいっていなくても、もう一方がうまくいっていれば、自分の心のバランスも取れるのではないかと思っていて。こんなことを言いながら、腹をくくって副業を本業にする!ということもあるかもしれませんが(笑)。
まろさん
本業に加えて副業もはじめると、忙しくなることは正直あるかと思います。私自身本業が忙しいタイミングと、漫画の単行本の発売時期が被っていて、バタバタとする時期が最近ありました。なので大切なのは、タスク管理。初歩的なことですが、メールは早めに返すなど、タスクをため込まないように心がけています。
私は、新卒時に会社の配属先によって自信を失うこともありましたが、副業をはじめたことで、1つ誇れることができたと思っています。自信につながるものが増えるというのは、副業をしてみて一番の収穫でした。その副業がきっかけで認められて、会社で新たなポジションをつかむきっかけにもなりました。かつての私がそうだったように、本業で自分の好きなことが十分にできていないという方。もしくは、その好きなことがまだ自分自身が得意なことなのか、続けられるものなのかどうかも分からないという方。そんな方には、副業という形でスタートするのはぴったりだと思います。
(編集・取材・文:眞田幸剛)