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【対談】副業は許可or禁止?企業は副業をどう捉え、活用すべきか

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企業はいま、副業をどう捉え、副業人材をいかに活用すべきか —— 今回は、パーソル総合研究所が実施した副業にまつわる実態調査のデータを交えながら、厚生労働省の柔軟な働き方に関する検討会委員を務め、厚生労働省勤務時代に副業解禁を提言した弁護士の荒井太一氏と、副業人材マッチングサービス『lotsful(ロッツフル)』代表を務めるパーソルイノベーションの田中みどりによる対談をお届けします。

荒井 太一 氏
森・濱田松本法律事務所 弁護士、ニューヨーク州弁護士

慶應義塾大学法学部、ヴァージニア大学ロースクール卒業。2015-2016年厚生労働省労働基準局勤務。ビジネス法務全般・労働法のほか、ベンチャー支援を主要業務とする。新しい時代の組織と人の関係や働き方の在り方についての提言も積極的に行う。2017年厚生労働省 柔軟な働き方に関する検討会委員就任。近時の著作として、『企業訴訟実務問題シリーズ労働訴訟―解雇・残業代請求』(中央経済社 2017年2月刊(共著))、『M&A法大系』(有斐閣 2015年12月刊(共著)、『実践 就業規則見直しマニュアル』(労務行政 2014年3月刊(編著)、ほか多数。日本経済新聞社第15回「企業法務・弁護士調査」弁護士ランキング労務部門にて4位にランクイン。

田中 みどり
パーソルイノベーション株式会社 lotsful代表

2012年新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。 IT・インターネット業界の転職領域の法人営業に従事。2016年10月より新規事業であるオープンイノベーションプラットフォームeiicon(現:AUBA)の立ち上げを行う。 2017年2月にローンチ後、売上を担うConsulting・Salesグループの責任者として従事。サービス企画、営業、運用、マーケティング、イベント企画、経営管理などを幅広く担当。 2019年6月より副業マッチングサービスlotsfulをローンチ、代表を務める。

副業を認めている企業の狙いとは?

副業に対する企業および個人の意識と実態把握を目的として、2018年10月にパーソル総合研究所が「副業の実態・意識調査*」を実施しました。その結果によると副業の許可状況、開始時期、また副業による効果について、以下の回答が得られました。

出典:パーソル総合研究所「副業の実態・意識調査(企業編)」(2018.10)

<企業側>
・副業を認めている企業(条件付き容認を含む )は50.0%、全面禁止も50.0%と拮抗。
・企業が副業容認を始めた時期は3年以内が52%、そのうち1年以内が22.8%と、近年増加傾向にある。
・副業容認で感じるプラスの効果は、人材採用で45.9%、離職防止で50.9%、モチベーション向上で50.3%、スキル向上で49.7%、社外人脈拡大で52.2%。

<個人側>
・正社員で現在副業している人は10.9%。現在、副業を行っていないが、今後副業したい人は41.0%。
・非副業者(現在副業をしていない人)を年代・性別にみると、すべての年代で女性の意欲の方が高く、若いほど副業意向が高い。

※出典:パーソル総合研究所「副業の実態・意識調査(個人編)」(2018.10)

 
副業を認めている企業には、どのような狙いがあるのでしょうか?

荒井

企業側の最大の狙いは、優秀な人材の確保でしょう。副業を認めることで自社の優秀な人材の離職や流出を防ぐことができる。さらに社内では得られない経験を積み、人脈を形成してもらい、本業によいフィードバックをもたらしてくれるという期待もあると思います。また、自社に副業OKの仕組みがある、外部からの副業人材を積極的に受け入れている、ということ自体が先進性のアピールになり、採用にもよい効果を生み出します。

田中

『lotsful』は副業人材を受け入れる企業様と副業人材のマッチングサービスなのですが、受け入れ側の企業も期待ポイントは同じですね。自社での育成や採用が難しい人材を探す手段として、副業市場が注目されつつあります。求人倍率が高い転職市場と比較して、副業市場はスキルもモチベーションも高い個人側の需要が高まる一方で、募集する企業はまだ少なく、どのような人材とどうプロジェクトをまわしていくのか企業側にノウハウが少ないのが実情です。そのため、実際に募集をかけられて『こんな優秀な人が応募してくれるんですね』と驚かれるケースが多いです。

副業を禁止する企業の本音とは?

前述の調査では、副業を禁止している企業の実態も垣間見えます。

出典:パーソル総合研究所「副業の実態・意識調査(企業編)」(2018.10)

<企業側>
副業を全面禁止している企業の70.9%は今後も禁止を継続すると回答、禁止の理由で最も多いのは、「過重労働につながるから」が49.2%で最多。

企業規模が大きくなるにつれて副業の全面禁止の割合は概ね高くなる傾向。ただし、1,000~1万人未満で全面禁止が59.2%、企業規模1万人以上では同54.2%と下がる。また、設立年数が長い企業ほど全面禁止の割合が増加する傾向にある。

一方で、副業を認めない企業が挙げる理由については、どのようにお考えですか?

荒井

 禁止の理由は、過重労働につながる、労働時間の管理ができない、情報漏えいにつながる、といったものが多いですね。ほかにも社員間の公平性を理由に挙げる企業もあります。しかし、これらは『あえて理由を挙げれば』であり、対策しようと思えばやり方がないわけではありません。あくまでも個人的な印象ですが、副業を積極的に許可するメリットがわからない、少しでもリスクがあるならやめておこう、という気持ちの面が大きいのではないかと感じています。日本企業は先例主義かつ横並び意識も強いので、同業種や同規模の企業で成功した事例が多く出てくれば、状況は変わるかもしれません。逆に、積極的に推進する企業の多くは、経営層からのトップダウンで行われている印象があります。

田中

そうですね。『lotsful』でも副業人材の受け入れニーズは、人事部ではなく営業や開発といった現場部門から起きるケースが多いです。ただ、稀に管理部門の反対で実現しないこともありました。やはり、経営側がそのメリットをしっかり理解した上で、どういう人材になってほしい、どういう組織になってほしい、という理念のもとで会社の方針として制度設計を含めて取り組まないと、なかなかうまくいかない気がしています。また、社員に副業を認めるには自社にも副業者を受け入れてみないと分からない、と実際に受け入れから始められる企業も多いです。

副業人材を「受け入れる」メリットと具体的な活用法~事例紹介

自社で副業を認める、認めないの議論に加えて、外部から副業人材を受け入れる検討も重要ということですね。

荒井

その通りですね。おっしゃる通り副業を『自社が解禁するかどうするか』だけの議論では前に進めませんので、副業人材を受け入れて自社で活用する視点を加えることが大切だと考えます。先ほどの転職市場と副業市場での需要と供給の違いのお話は興味深いですね。

田中

私はかつて、オープンイノベーションやアクセラレータプログラムなどの、大企業が新規事業をベンチャーと共創するプロジェクトにも携わったのですが、副業市場はそれに近い要素があるものとして捉えています。副業人材の募集の場合、現状しっかりとした職務定義をすれば企業側が断られるケースは稀で、まずやってみようとなることが多いです。応募者側は正社員として入社するよりも、企業側も新規事業要員をいきなり採用するよりも、双方にとってリスクが少なくて済みます。そもそも新規事業ではどのくらいのリソースが必要で、どの業務の人手を増やせばその事業が拡大するかが見えない状態です。そこに副業人材を活用できれば、プロジェクトを前に進めながら人員計画を試すことが可能になるというわけです。自社の副業解禁を考える上でも、まずは副業人材を受け入れてみると、メリットを実感できると思います。

荒井

企業が人を採用したいときに、フルタイムかパートタイムかの選択肢に加えて、副業人材への業務委託というバリエーションが増えるということですよね。また、これまで業務委託はエンジニアやデザイナーなど、自社での育成が難しく、また高い専門性を持った人材が少ない職種に限定されていた印象があります。しかし今後は、プロジェクトマネジャーやバックオフィスなど、さまざまな職種で副業人材のニーズが広がる可能性も高いと思います。具体的には、どのような事例がありますか?

田中

まずは、モノづくりは得意で技術力には自信があるけれど情報発信が苦手、という企業の事例です。コロナ禍で従来型のオフラインでの営業活動に支障をきたしたことで、Webサイトからの問い合わせ増加などデジタルマーケティングを強化したいというのが目的でした。そこでデジタルマーケティングに明るい副業人材を活用して、自社のWebサイトを改修し、パンフレットや動画もリニューアルして営業活動にも活用、成果を実感されました。この成功体験から、バックオフィス業務の体系化や、営業戦略全体の見直しにも副業人材を活用したい、という声が上がっています。

荒井

すばらしいですね。

田中

もう一社は、これまで地域での採用が難しく苦戦されていた地方企業の事例です。ニューノーマルになりリモートで仕事をすることがあたりまえになったこともあり、首都圏から優秀な副業人材に事業開発プロジェクトに参画してもらうことになりました。当初はうまくいくのか不安を感じていらっしゃいましたが、実行してみると新たなスキルやノウハウが学べて現場に非常に喜ばれたそうです。今後は、マーケティングや新規アライアンス先の開拓などにも副業人材の活用範囲を広げられないか、と検討されています。

荒井

なるほど。副業をやる側にとっても、地域や地元への貢献はモチベーションの一つになるかもしれませんね。コロナ禍でリモートでの業務が当たり前になったことで、遠方の副業人材が活用しやすくなったというのも大きな変化ですね。

副業人材をうまく活用するためのコツとは?

では、副業人材を受け入れる際、どういった点に注意すべきでしょうか?

荒井

受け入れに際してよくある質問が、労働時間の考え方です。たとえば副業の方が夕方からはたらくと、労働基準法の法定労働時間との兼ね合いで割増賃金を支払わねばならないため雇いづらい、といったご相談です。雇用契約では法定労働時間や残業、割増賃金が問題になりますが、これは雇用契約ではなく業務委託契約にすることで解消できます。また、機密情報の取り扱いについてのご相談もいただくことが多いです。自社から持ち出されるだけでなく、外部から持ち込まれる機密情報についても注意を払う必要があります。これに関しては微妙な線引きではありますが、事前に『ノウハウはOKだが、機密情報は持ち出しも持ち込みもNG』などと企業側から副業人材にはっきり伝えておくことが重要です。また、契約時にしっかりとした要件定義と、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)をまとめることも非常に重要ですね。

田中

そうですね。そこがうまくいかない、苦手だという声もよく聞きます。まずは、これまでの『人に仕事がつく』から『仕事に人がつく』考え方に切り替える必要があります。その上で、業務を細分化し、挙げてほしい成果を明確にしておくことで、契約継続または終了といった判断も正しくできるようになります。さらに、成果を上げるためには必要な情報を十分に副業者に開示し、パフォーマンスを出せる環境を作って『お任せ』することもポイントですね。

荒井

そうですね。社内にないノウハウやスキルを持っている人材に対しては、こまごまと指示するのではなく、良い意味で『丸投げ』する方がうまくいきます。『lotsful』では、副業人材を紹介するだけでなくまさに、こういった副業人材の活用の仕方をサポートするサービスですよね。 

田中

はい。副業のマッチングを行うプラットフォームサービスは数多くありますが、私たちはエージェント型をベースにサービスを提供しています。プロのタレントプランナーが、まず外出しのために企業側がもつジョブの整理や要件定義をサポートし、ニーズを洗い出します。そしてそのニーズに合った副業人材を経験やスキルをアセスメントした上で、本人の希望に応じてご紹介します。その後も企業、副業人材、当社を含めた3者でのミーティングなど、双方のコミュニケーションギャップを埋める伴走型のサポートを行う点が特長です。副業での活動に『慣れている』のと『実力がある』のは違いますから、我々のサービスを活用することで様々な環境で持っている実力を発揮できる人を増やしたいと思っています。

荒井

なるほど、紹介したら終わりではなく、プロジェクトマネジメントも担うわけですね。こうした副業人材活用の取り組みを通じて、企業側は業務の標準化や、ジョブ型雇用に向けた業務の棚卸しができるといった効果も期待できますね。

最後に、副業の解禁・受け入れを検討中の企業へアドバイスをお願いします。

荒井

検討にあたってはさまざまな疑問や問題が生じると思います。国からも副業・兼業における労働時間管理や健康管理等について示したガイドラインなどが公開されていますので、参考にしてください。これまでの雇用環境では、自分のキャリアを自分で選択するという意識が醸成されにくかったように思います。しかし、副業で新たな経験を積み、それを本業で活かし、新たな知見をもたらす循環が生まれれば、はたらく個人にも企業にも、ひいては社会にも、より大きな活力が生まれてくるのではないでしょうか。 

田中

1人が1社で勤め上げるといった時代も終わり、企業が優秀な人材を獲得し続けるには、より多様な人材に対応していけるよう変化する必要があると思います。また、個人としても会社や肩書きではなく、「何ができる人なのか」というその人自身の実績や経験がより重要になってくると考えます。パーソルグループでは、『lotsful』を中心に企業の副業についての検討、推進を支援しています。他社よりも早く取り組むことで得られる効果は少なくありません。ぜひプロの知見を用いて、仕事の仕方とはたらき方のアップデートを実行してみてください。

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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