副業を解禁している大企業とは?どんな目的がある?
2018年1月に厚生労働省が『副業・兼業の促進に関するガイドライン』の『モデル就業規則』で副業禁止の規定を削除、副業・兼業についての規定を新設しました(※1)。これをきっかけに、さまざまな企業が副業解禁の動きを見せ、大企業もその例外ではありません。
この記事では、実際に副業を解禁している大企業の事例を8例紹介し、従業員に副業を解禁するメリット・デメリットを解説します。
※1:厚生労働省 『政策について 副業・兼業』
副業を解禁している大企業とは
早速、従業員に副業を解禁している大企業の事例を、8つ見ていきましょう。
ソフトバンク株式会社
まず紹介するのは、ソフトバンク株式会社の取り組みです。
同社では、ITやAIを活用し、社員が最適なはたらき方で、個人・組織の生産性を最大限引き出すスマートワークを推進中です。副業・兼業も取り組みの一つに取り入れられ、会社の許可を前提にスキルアップや成長につながる副業が許可されています。社員が副業・兼業にチャレンジすることで、社内で培った経験と新たな知見を組み合わせ、未来の新規事業や既存事業活性化につなげることを期待している、とされています。
なお、同社では2021年より『SB流社内副業制度』も導入。成長意欲のある社員と所属する組織外の視点や専門性を必要とする組織をマッチングする制度も取り入れています。
※参考:ソフトバンク株式会社『スマートワークスタイルの推進』
ロート製薬株式会社
副業が解禁される以前の2016年4月からいち早く副業・兼業を認めてきたのは、ロート製薬株式会社です。
同社では、「副業」ではなく「複業」と呼んでいるのも特徴的で、社員の発案から多様なはたらき方を推進する取り組みとして「社外チャレンジワーク(複業)制度」を整備しています。これまでに実践した社員は2021年12月時点で123名。会社の枠を超えたはたらき方で自己成長につなげ、本業に還元することを期待して定められた制度で、美容Webライター、大学講師、キャリアコンサルタントなど、実践例が一部ホームページ上で公開されています。
※参考:
ロート製薬株式会社『ロートの複業・兼務・社内起業 実践者レポート2022』
ロート製薬株式会社『個人と会社の共成長を目指す、ロート製薬の新・働き方宣言!』
ロート製薬株式会社『一人ひとりの「個」が主役になるWell-being経営の実践』
株式会社リクルートホールディングス
人材大手の株式会社リクルートホールディングスも、上長と人事部署長の承認を受ければ副業・兼業が可能です。
同社では、社外での仕事の機会を活用して本業で新たな価値創造につなげることを期待し、「パラレルワークスタイル」を推進しています。2022年7月時点で、従業員数約1万7,000人に対して1,268人が実践。同社公式ブログで、副業や兼業をしながら同社で活躍する人材へのインタビュー記事を複数公開するなど、会社をあげて社内外で活躍する人材を応援する社風がうかがえます。
本業・副業・家事・育児それぞれを成り立たせる時間の使い方の事例も紹介され、半期に6~7日間の連休を自由に設定できる「フレキシブル休日」を活用して副業に活用する人材もいるようです。
※参考:
株式会社リクルートホールディングス『ESG Data Book 2021』
株式会社リクルートホールディングス『リクルート現役従業員の本音。”本業”と”副業・兼業”、パラレルワークをするその理由とは?』
株式会社リクルートホールディングス『リクルートで働きながら、故郷で副業する。仕事、地域活性、子育ての3両立を実現する働き方とは?』
株式会社エイチ・アイ・エス
旅行業者の株式会社エイチ・アイ・エスでは、2018年より副業を一部解禁しています。
2017年、『通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案』が閣議決定され、通訳ガイドの人数を増加させ、質を向上させる取り組みが定められました(※1)。この流れを受け、旅行者のニーズと最新の旅行動向をウォッチし、インバウンドへの対応を強化する国策に貢献するため、同社では社員が通訳ガイドに積極的に取り組める体制として副業を一部解禁しました。
2023年時点、同社での「副業」は個人としての事業に限り、二重就労は認められていません。あくまで旅行業の分野で社外での経験を活かし、本業でのサービス向上が期待される制度です。
※参考:株式会社エイチ・アイ・エス『多様性を生み出す 4 つの働き方を導入』
※1出典:国土交通省 観光庁『「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律案」を閣議決定』
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社みずほフィナンシャルグループも、2019年から副業・兼業を一部解禁しています。
同グループでは、就業時間外に自ら起業・自営したビジネスであれば副業が認められています。新入社員以外の全ての社員に対して副業が認められ、社外で新たなビジネスに触れ、一人のビジネスパーソンとしてさらに成長することを目的に、推進されています。同グループでは、過重労働を防止するため、副業にかかる予定時間をあらかじめ申告し、許可を得る必要があるようです。
また、「社外兼業制度」も整備されており、週に1~2日を目安に2年間、他社へ出向する形で勤務できる仕組みもあります。
※参考:
一般社団法人 日本経済団体連合会『株式会社みずほフィナンシャルグループ』
株式会社みずほフィナンシャルグループ 採用情報サイト『多様な挑戦機会』
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社では「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」の一環として、2020年より週3日以上の在宅勤務推奨や副業の認可などさまざまな取り組みを推進しています。
同社では、深い専門性や新たな視点・経験を社員が獲得することで、本業でのイノベーションにつながるような副業が認められています。実践した社員へのインタビュー記事が同社ホームページにも公開されており、副業で得たスキルがどのように本業へ活かされているかを知ることができます。
なお、同社の取引先や競合他社など、本業と関わりのある業務は認められず、本業・副業を合算した労働時間を把握し、長時間労働を防ぐ取り組みもなされているようです。
※参考:
キリンホールディングス株式会社『「『働きがい』改革 KIRIN Work Style 3.0」の取り組みについて』
キリンホールディングス株式会社『KIRIN社員のニューノーマルな1日』
ANAホールディングス株式会社
航空運送事業を展開するANAホールディングス株式会社では、2020年より認められる副業の範囲を拡大し、個人事業以外に、他社で雇用される形での兼業も認可の対象となりました。兼業を開始する1ヶ月前を目安に所属の上長を通じて人事部に申請書と誓約書を提出することで副業に挑戦できます。
入社2年目以上のパイロットや客室乗務員を含む、ほぼ全ての従業員が副業・兼業ができるようになり、2022年度の実績は約2,300件にのぼります。社内のポータルサイトを通じて、会社から兼業を紹介するケースもあるそうです。
※参考:
一般社団法人 日本経済団体連合会『ANAホールディングス株式会社』
ANAホールディングス株式会社『Welfareー働き方・福利厚生など』
ANA『統合報告書2023』
株式会社ディー・エヌ・エー
2017年に副業が解禁され、2022年時点で社員の約14%が実践しているのは、株式会社ディー・エヌ・エーです。さまざまなキャリア形成の機会を得ることを望む社員に対して、自己実現を叶える制度として副業を解禁しています。副業導入のメリットとして、「ディー・エヌ・エー以外の場でも挑戦してみたい」という転職理由での離職率が下がったことが自社サイトの一部記事で語られています。
また、同社では「クロスジョブ制度」と呼ばれる制度もあり、業務時間の最大3割まで社内の他部署の仕事が兼務できる仕組みがあるようです。
※参考:
株式会社ディー・エヌ・エー『働く環境』
一般社団法人 日本経済団体連合会『株式会社ディー・エヌ・エー』
株式会社ディー・エヌ・エー フルスイング『「リモートワークの継続は?」「副業は?」DeNAに入社したらどうなるかを、採用担当者に直撃!』
大企業が副業を解禁しているメリット
ここまでで、実際にさまざまな企業が副業を解禁していることがわかりましたね。ここからは、大企業が副業を解禁するメリットを3点紹介します。
社員のモチベーションアップ
副業を解禁し、本業以外の場で新たな知識や経験を積むことは、自身の市場価値を客観的に見直すきっかけになり、社員自身のモチベーションアップにつながることが期待できます。副業や兼業で身につけた新たなスキルを本業に活かし、さらに輝ければ、個人のモチベーションだけでなく、中長期的に考えると企業全体の活性化、売上アップにつながる可能性もあるでしょう。
社員のスキルや経験値のアップ
会社が異なれば、仕事の進め方や考え方もさまざまです。他社での副業を解禁することで社員の視野が広がり、新たなスキルや知見を獲得でき、本業に活かせる可能性があるでしょう。副業として個人事業に挑戦する場合には、一人で企画、広報、経理、営業など、さまざまな部門の業務を包括的に行う機会になるため、会社や他部署への業務理解が深まる側面もあります。
企業の魅力アップ
優秀な人材を獲得するため、採用の競争は年々高まっています。また、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、リモートワークや在宅勤務など、はたらき方への希望は多様化しています。そのようななか、副業・兼業を企業として認めることは、中長期的にフレキシブルなはたらき方ができる期待を醸成させ、企業のブランディング向上につながるでしょう。
大企業における副業解禁の注意点
一方で、大企業で副業を解禁する際にあらかじめ検討しておくべき懸念点もあります。ここからは、副業解禁の注意点を3つ紹介します。
従業員の健康管理
ほとんどの場合は、本業以外の時間で副業に取り組むことになります。そのため、過重労働になり、睡眠不足やストレスなどから健康に支障をきたしてしまう可能性があるでしょう。そうなると、本業での生産性低下につながりかねません。副業にかかる時間の申告を義務付けるなど、工夫して制度を運用することが必要です。
機密情報の流出リスク
複数の社員が自社以外で活躍することは、機密情報が漏洩するリスクも同時に高めてしまうのは事実です。副業を認める前に、副業する際の注意事項や秘密保持義務について、共有の場を設けるなど、情報の取り扱いに改めて注意喚起をする必要があります。
人材の流出リスク
副業先での業務が本人にとって合っており、よりやりがいを感じた場合、優秀な人材が退職してしまう可能性は十分にあるでしょう。副業先で身につけた新たなスキルや強みを本業で活かせるような仕組みをつくるなど、会社の魅力が伝わるような環境整備が求められます。
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この記事では、実際に副業を解禁している大企業の事例を8例紹介し、従業員に副業を解禁するメリット・デメリットを解説しました。
副業を解禁することにはメリットも懸念点もありますが、すでに副業を認める企業では、ポジティブな効果を実感しているところも少なくないようです。
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