新規事業×副業人材活用で注目を集めるライオン・藤村氏に聞く――自らも副業を経験し、見えた景色とは?
今回、「lotsful magazine」が取り上げるのは大手生活用品メーカーであるライオン株式会社の藤村昌平氏です。ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション部の部長を務める同氏は、新規事業立ち上げやイノベーションを生み出す組織づくりを手がけています。
2020年に立ち上がったビジネス開発センターでは副業人材を公募し、実に1600名以上が応募。その中から採用したエンジニアやプロジェクトマネージャーといった副業人材を、積極的に活用していることも大きな注目を集めています。一方、藤村氏自身も副業人材として株式会社協働日本に所属。地方の中小企業を新規事業領域から支援する活動に取り組んでいます。
そんな藤村氏から、大企業で副業人材の採用に踏み切った背景や活用ポイントに加え、自身も副業人材として活動する中で感じるメリットなどをお伺いしました。
ライオン株式会社
ビジネス開発センター ビジネスインキュベーション部部長
藤村昌平氏
2004年ライオン入社。R&D部門で新規技術開発や新ブランド開発を経験後、2016年より新規事業創出業務に関わる。2019年4月より新価値創造プログラム「NOIL」の事務局長を務め、2020年1月より現職。
約1600名以上が応募、注目を集めた副業公募
藤村氏
ライオン全社の新規事業の取り組みに関しては多岐に渡りますので、私の目から見た部分でご説明します。もともと、「新規事業を推進しよう」というよりも、R&Dのマネジメントを改革するところが起点でした。
というのも、私たちのようなメーカーでは企画部門と研究部門がタッグを組んで製品を開発しますが、近年は開発サイクルがはやくなり、研究部門が企画をカタチにするのに忙殺されるという状況が続いていました。これだと新しい領域に打って出ようとしても、研究部門が先頭に立つことが難しい。そこで、R&Dマネジメントの改革に取り組むことになったのです。
しかし、マネジメントを改革して研究部門の時間を創出しても、その時間をどう使うかまで決めておかないと意味がありません。そこで、新規事業をプロジェクトベースで立ち上げて、創出した時間をあてることにしたのです。そのような経緯があって、社内にイノベーションラボという新規事業創出を専門とする部門ができ、新価値創造プログラム「NOIL」へと繋がっていきました。
藤村氏
そうですね。多くの方にご応募頂いた中で、現在10名程度の副業人材がビジネス開発センターで活動しています。例えば、「ご近所シェフトモ」という夕飯のおかずのテイクアウトサービスでは、大手IT企業などに所属しているエンジニアやプロダクトマネージャーといった、当社では珍しい分野のスペシャリストにお手伝いいただいています。
副業人材がジョインすることでスタートアップ流のサービスの立ち上げ方なども学んでいます。みなさんすごいバリューを発揮してくれて。これからも一緒に活動したいと考えています。
藤村氏
新規事業が確実に進みながらカタチになり、ユーザーに受け取ってもらえるという実感がありますね。また、新規事業においてどのような分野に長けた人材がいないと、サービスとして成長することができないのかが明確になりました。
今後は既存事業もトランスフォーメーションしていく必要がありますので、新たなサービスを提供するにはどんな体制が必要なのか具体的にイメージできるようになりましたね。数年後の姿を描きながら、足りない部分をどう埋めていくのかなども、副業人材の方に相談しています。
副業人材がジョインすることで得た”気づき”
藤村氏
副業人材の採用段階から、社内で受け入れを行う主要メンバーと話し合いの場を設けていました。副業人材のマネジメントを誰がどこまでやり、何を任せ、アウトプットをどう吸い上げていくか、事前にすり合わせることが活用のポイントになると思います。
また、”気づき”という点でいうと、副業人材と仕事をする中で、ライオンの業務の進め方が特殊だったことも発見できました。IT業界などでは要件定義を固め、「ここまでに対応していないとローンチできない」など、タスクを明確にしています。しかし、良くも悪くも当社では、1から10まで全部言わなくても仕事が進んでいくんですね。
例えば、打ち合わせをしたら「次まではこれくらいのものを用意すればいい」と、それぞれの役割が阿吽の呼吸で進んでしまっていたんです。ある日、いつものように会議をしていると、副業人材の方から「この状態だと2週間後の会議まで、私は何もしなくていいことになりますが」と言われて。理由を聞くと、誰が、何をやるかといった仕事の定義がされていないと。「逆にみなさんは、この2週間で何をやるつもりだったのか?」と質問されてしまいました。それからは、明確なタスク管理・分解をするようになりました。
藤村氏
定型の作業フォーマットができると、それを一回経験すればそれからは指示がなくてもできるようになりますからね。しかし、0→1でサービスを立ち上げるには方法が無限にあります。既存事業と新規事業、それぞれの仕様や設計書は違いますから。だから今まで新規事業がなかなか前進しなかったのかと、副業のメンバーたちから学びましたね。
副業人材として活動し、得られるものとは
藤村氏
はい。同社では、地域企業を実行フェーズから支援しており、マーケティング支援やECサイトの立ち上げ・管理など、業務は多岐に渡ります。私はその中でも、新規事業関連の支援に関わることが多いですね。
藤村氏
新規事業に関わる部署にはいますが、ライオンの社内では自ら新規事業を立ち上げるのは難しいと考えていました。なぜなら、「社内の新規事業に関わるルール作り」を行う立場なので、その私が新規事業に関わっていると、思わぬ軋轢が生じてしまう可能性があるからです。つまり、新規事業のプレイヤーとルールを作る側の人間は、分けるべきだという考えですね。
ですので、今のポジションに就くタイミングで、私が動かしていた新規事業は全て手放しています。しかし、自らの手で新規事業を立ち上げていなければ「勘が鈍ってしまう」と感じていました。そこで、自ら考え新規事業を立ち上げる場として、副業を選んだのです。
藤村氏
そうですね。その他にも副業でクライアントと関わる中で、専門外の領域でも依頼があれば勉強しながら対応し、知見をお持ちの方にも助けてもらっています。そうした時に、「今の自分にどんなスキルや知識が必要なのか」という気づきを得ることができるのもメリットですね。
藤村氏
クライアント側から「あなたは何ができますか?」といった目で見られるというか、お手並拝見みたいな状況になる場合があるんですね。それだとお互いが不幸になってしまう場合もあるので、スタート時にクライアントも含めたひとつのチームとして、何を解決していくのかを明確にしています。そこから役割分担を決め、進めるようにしています。そうすれば、何が必要になってくるかも段々と浮き彫りになってきますからね。
藤村氏
やっぱり、「仕事を面白がれるか」がポイントだと思います。本業で、大企業のような分業が進んでいる場にいると「これは自分の仕事ではないですよね」といった考えが、まかり通ってしまいます。縦割りが進んでいる企業では、当たり前のように思えますが、副業だとその考えでは厳しい。
一人で入っているプロジェクトもあるので、「できない」は通用しない世界なんですね。専門外であっても、調べながらコミットすることに面白みを感じないと続かないでしょう。逆にそれができるのであれば、活躍できる場所をきっと見つけられると思います。
(編集・取材・文:眞田幸剛)