【セミナーレポート】HR業界のキーパーソン3名が語る「令和時代の人事戦略」を読み解くキーワードとは?
労働力人口の減少や新型コロナウイルスの影響などにより、HRマーケットにはパラダイムシフトとも言える大きな変化が起きています。ジョブ型報酬制度や雇用形態の柔軟性、副業・兼業などが注目され、個人の働き方や人事の採用手法にも新しい潮流が出てきています。
こうした市場環境において、優秀な人材を獲得し、事業を成長させる人事戦略とはどうあるべきなのか?――そのヒントを探るべく、lotsfulは「サラリーズ(※)」と共に「HR最前線-優秀人材を獲得する!令和時代の人事戦略」というオンラインセミナーを開催しました。
ゲストとして登壇したのは、狙った候補者を確実に入社に導く「一撃必殺のメスライオン」の愛称で採用セミナー講師としても活躍するCuoreの宇田川奈津紀氏と、ミレニアル世代の社会起業家・パラレルワーカーとして活躍しながら、パーソルキャリアで「サラリーズ」 の企画・開発を担当する正能茉優の2名。
本記事では、これからの人事戦略を考えるカギとなる、様々な意見が交わされた本セミナーの模様をレポートします。
※「サラリーズ」は、マーケットデータに基づいた「ジョブごとの報酬水準データ」を提供するサービス。
個人の「働く環境」はどのように変化しているのか?
田中
まずはお二人から見て、「個人の働く環境はどのように変化しているか」についてお聞きしたいです。
正能
私がお話しする機会の多い「副業・兼業」というテーマ一つとっても、大きく変わってきていると思います。これまではメインの仕事に対してのサブという意味合いでの「副業」だったり、パラレルにいくつかの仕事をする「複業」という概念がありましたが、最近は「スラッシュキャリア」も一般的になってきたのではないでしょうか。SNSのプロフィールなどで見かけるような、スラッシュで複数の経歴や肩書きを組み合わせて、個人の価値を作り上げていくような考え方ですね。副業という働き方が、単なるお金稼ぎではなく、自分のキャリアに経験・スキルというタグを埋め込んでいくためのものになりつつあるのかもしれません。
田中
これからは「あの会社の●●さん」ではなく、「あの仕事を任せられる●●さん」となっていきますよね。
正能
そうですね。無闇に副業を増やすのではなく、キャリアの組み合わせで一つの価値を生み出すことが重要です。その時に意識したいのは”違和感のある組み合わせ”。私は「なのにキャリア」と呼んでいるのですが、例えば、経営者”なのに”会社員とか、掛け算した時にどんな価値が生まれるのか考えていくのがポイントですね。そうした組み合わせによって、経営者の視点を持った会社員、会社員の働き方がわかる経営者といった、新しいユニークな価値が生まれてくるのではないでしょうか。
田中
組み合わせによって、様々な可能性が広がりますね。宇田川さんはいかがですか?
宇田川氏
私は実体験から個人の「働く環境」をお話しさせていただきます。実は、2019年に介護離職を経験しました。当時、年間500名程度の採用を担う人事部長として働いていたのですが、父の介護と仕事の両立の難しさに直面し、介護に専念することにしたのです。
しかし、その途端に目標を失ったというか、何もやる気が起こらなくなってしまいました。そんな中、「週一でもいいから、メスライオンに採用を手伝ってほしい」といったメッセージを多くもらったんです。それがきっかけで、パラレルワーカーとして働くようになりました。現在も常時5、6社ほどの企業の採用活動をお手伝いしながら、介護を続けています。
私は介護問題に比較的早く直面したのですが、企業の人事部長さんの多くが40代で、彼らも近い将来この問題にぶつかる可能性があります。超高齢化社会である日本において、介護離職しないために自分のキャリアをどのように活かすのか、どのように働くことができるのか。そういった視点でキャリアを柔軟に積み上げていくことが、ますます必要になってくると思います。
田中
介護もそうですが、育児など人生の節目において、自身のキャリアを意識して働いていくことが重要だと。そうすると、企業に縛られずに活動する個人も増えていきますね。
ここで質問がきましたので、ご紹介します。「スラッシュキャリアについて質問です。選択するキャリアについて量と質のバランスなど、意識していることはありますか?」ということですが、正能さんいかがですか?
正能
スラッシュキャリアの価値を決めるのは”数”ではないと思っています。私が考えるポイントは、先ほどお話しした「価値を生み出せる組み合わせなのか」と「希少性」。この2つの観点で検討し該当していれば、キャリアは2つでも100でもいいわけです。ただ数を増やすだけだと、何をやっている人かの輪郭がぼやけてしまうので、社会における自分の価値を高めるという観点が大切です。無闇にキャリアの数を増やしても「よくわからないけど、色々やっている人」という評価になってしまっては、もったいないので。
変化してきていると感じる最近の人事トレンド
田中
これまで働く個人側の変化についてお話を聞きましたが、人事側のトレンドはいかがですか?
正能
私は人事のお仕事をされている方々と話す機会も多いのですが、やはり「ジョブ型」はキーワードとしてよく耳にしますね。「サラリーズ」のご紹介をさせていただく中でも、「これからジョブ型に切り替えることを検討している」といった相談を受ける機会も増えてきました。
田中
宇田川さんはいかがですか?
宇田川氏
労働力人口の低下は前から分かっていたことですが、新型コロナウイルスの影響によって紹介会社の求人紹介件数も減少しています。以前は求人を出したらすぐに応募がきた企業も、現在は紹介会社に依頼をしたとしても採用が難しい状況です。ダイレクトリクルーティングにシフトしてきてはいますが、それもすでに各社着手しています。
そんな中、私が採用コンサルとしてジョインした企業で、採用ポジションを「正社員でなく業務委託で受け入れる」という提案をしました。そうすると、今まで採用できなかったポジションを採用することができたのです。このことから分かるように、ダイレクトリクルーティングを進めながらも、副業や兼業といった雇用形態に捉われない採用を推進することが、さらに必要となってくると感じています。
田中
採用成功のためには、雇用形態も柔軟に考えていくと。
宇田川氏
コロナ禍で、企業が生き残るための採用戦略も変化してきています。経営者は「常駐の正社員が欲しい」と言う方も多いと思います。しかしながら、能力のある人が見つかるかは未知数です。もし、採用できなければ事業がストップしてしまう。そうならないために、「業務委託でも一度は会ってみるべきだ」と人事部長と足並みを揃えて経営陣に提案するようにしています。
田中
正能さんは「サラリーズ」を手がける中で、フェアな処遇・評価をすでに実現できているなと感じた企業はありますか。
正能
働き方・雇用の過渡期のなかでどの企業様も模索中という印象でしょうか。優秀人材の流出を防ぎたい、採用の際に妥当なオファー額を検討したいといった社外を意識する機会があると、「社会のなかでの処遇や評価」を考えるきっかけになるのかもしれません。
ただ、今後雇用の流動化が進んでいく社会においては、「社会のなかでの処遇や評価」を意識していく動きは企業・個人ともに加速していくのではと考えています。
これからの人事戦略で重要となるテーマ
田中
次に、これからの人事戦略で重要だと感じるテーマについてお聞きします。宇田川さんはいかがでしょうか?
宇田川氏
私が考える人事戦略の重要テーマは、「多種多様な雇用形態の複合化」です。労働力人口が減少し、さらにコロナ禍によって転職に対して腰が重くなった人が一定数存在します。そうした状況の中で、採用が進まないために事業をストップさせてしまうのは、企業の死活問題になります。そこで、雇用形態の複合化を進めることで、採用に時間をかけずに事業スピードを保つことを目指していくのです。
田中
雇用形態の複合化を進めることで、優秀な人材を獲得する可能性を広げるということですね。正能さんはこれからの人事戦略の重要テーマについて、どのようにお考えでしょうか?
正能
社内でなく社会に視野を広げて、報酬制度や評価制度などを検討することが必要だと考えています。働く個人が情報を得る方法が数多くある今、その情報を用いて、個人が働く環境を主体的に選択できるようになりました。このような環境下でも企業が働く個人から選ばれ続けるには、”働く個人に対して、フェアである”という姿勢を、処遇などの目に見える形で伝え続ける必要があると感じています。
田中
質問もきています。「エンジニア採用で、リファラル採用が上手くいきません」という質問なのですが、宇田川さんいかがでしょうか?
宇田川氏
リファラル採用は制度を作って終わりではなく、なぜ社員が知人を紹介してくれないのか?をヒアリングしながら、原因を明確にして対策を打ち出していかなければなりません。あとは、プラスのご提案になりますがツイッターなどのSNSを人事が活用し、フォロワーを増やしながら、エンジニアに刺さるツイートをするという手法もあります。ツイートを見てくれる人の中に、求める人材がいる可能性がありますから。
田中
そのほかに、「優秀な方に副業や業務委託で入ってもらっても、どこまで任せるか線引きが難しい」という質問もきています。
宇田川氏
これは、田中さんが詳しいですよね(笑)。
田中
そうですね。lotsfulで支援をしていて難しいなと思うのは、既存事業のタイムリーに動く必要がある業務に副業人材をアサインすることですね。契約形態にもよりますが、副業や業務委託の人材はフルタイムの社員とは異なるので、自社にノウハウがなく任せ切れるものや、リアルタイム性が必要ない業務を中心にお任せしていくのが良いと思います。新規事業で垂直立ち上げのタイミングなどが、まさにそうですね。
副業人材に対してコミュニケーション窓口となる社員をアサインしておくことも必要で、どちらがどこまで担当するのか線引き・受け渡しができる体制を作ります。また、成果のイメージはキックオフですり合わせ、プロフェッショナルとしての仕事は期待するものの、正社員のような”コミット”を求める意識は思い切って捨てることです。
正能
あとは働く個人側が「ここまでは対応できます」といった、線引きを自分から明確にしていくことも大事かもしれませんね。また、副業人材を求める企業様が優秀な個人に興味を持ってもらうには、報酬だけでなく「そういう事業なら報酬が低くてもジョインしたい、コミットしたい」と思ってもらえるようなミッションやビジョンを持つことや、環境づくりがポイントだとも思います。
田中
やはり個人にとっても副業をするというのは大変なことなので、その中でも「やってみよう」と思ってもらえるように、自社の思いやビジョンをしっかりと伝える必要がありますね。
人材獲得において、今後経営者や人事に求められること
田中
最後に人材獲得において、今後経営者や人事に求められることについて、アドバイスなどあればぜひお願いします。
正能
繰り返しにはなりますが、優秀な人材を獲得し働き続けてもらうには、社内で閉じない「社会的な視点」が必要です。それを形にしたものの一つが、給与制度などの処遇ですね。処遇は、企業から働く個人へのラブレターだと私は思っていて、処遇を通して個人にしっかりと想いを表現することで、企業と個人はより良い関係を構築できると思います。どんなラブレターを書けばいいのか迷っている人事の方は、ぜひ「サラリーズ」にお声がけください。
宇田川氏
何より大切なことは、経営戦略の中に人事戦略があるという視点を持つことです。そして、求める人材を現場視点と経営目線で見てみることが重要です。現場視点とは「どうしたら事業が加速するか」、経営目線とは「どうしたら企業の成長に採用を並走できるか」になります。経営目線で考えれば、今の給与テーブルで優秀な人は獲得できるのか。激化する人材獲得競争の中で自分の会社は生き残れるのかを、考えなくてはなりません。苦しみもあると思いますが、採用に関して何とかしたいとお考えであれば、ぜひメスライオンに連絡ください(笑)。
(編集・取材・文:眞田幸剛)