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【セミナーレポート】NECやパーソルの新規事業経験者が語る―「大企業×新規事業」における組織作りのヒントとは?

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コロナ禍によりビジネスのルールが一変し、各業界の競争スピードも一段と速くなっています。こうした市場環境において、事業を加速させるためのイノベーティブな組織作りに注目が集まっています。――そのような中、lotsfulでは【「大企業×新規事業」の組織づくり】をテーマにしたオンラインセミナーを開催しました。

今回はゲストスピーカーに、事業会社・金融会社・アカデミアの連携で共創型R&Dから新事業を創出する日本電気(NEC)のジョイントベンチャー、BIRD INITIATIVEの代表取締役社長 兼 CEOの北瀬聖光氏と、パーソルイノベーションが運営する個人向けの新規事業開発プログラム「Drit」で運営責任者を務める森谷元氏を招聘。lotsful代表の田中みどりがモデレーターを務め、組織作りや人材戦略・マネジメントのあり方などについて議論しました。

3人はいずれも大企業で新規事業立ち上げの経験を持ち、それぞれの知見に基づく活発な意見交換が行われました。本記事では、トークセッションの内容をレポートします。

▼ゲストスピーカー

BIRD INITIATIVE株式会社 
代表取締役社長  兼  CEO
北瀬聖光氏

NEC コーポレート・エグゼクティブとして、文教・科学市場で数多くの世界初・日本初の最先端事業開発を実現。北米dotData,Inc.のカーブアウト、オープンイノベーションによるAI創薬、Spin-In事業開発、クラウドファンディング活用など大企業におけるイノベーションの組織開発、人材開発、事業開発の実績多数。2020年9月設立の新会社BIRD INITIATIVE株式会社の代表取締役社長兼CEOに就任し、事業会社、金融、アカデミアとの共創型R&Dよる新事業創出を通じて、研究成果の価値最大化を目指している。

パーソルイノベーション株式会社
インキュベーション推進室室長/「Drit」運営責任者
森谷元氏

2014年に株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に新卒入社、株式会社インテリジェンス ビジネスソリューションズ配属。人事組織コンサルタントとして新人賞を獲得。また、同年、社内ビジネスコンテストのファイナリストとなる。2015年、新規事業部門に異動し、新サービス創出2件にディレクターとして携わる。2016年、アマゾンジャパンに転職。法人向け新規事業の立ち上げを担当。事業成長に貢献し、年間MVPを受賞。2018年、パーソルの新規事業創出を加速させるためにパーソルホールディングス イノベーション推進本部(現:パーソルイノベーション株式会社)入社。個人向けの新規事業開発プログラム「Drit(ドリット)」の運営責任者として、“はたらく”に関する社会課題解決のための新規事業を創出すると共に、5年間で1,000人の“イノベーション体質人材”の輩出を目指している。

▼モデレーター

lotsful 代表 田中みどり

2012年新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社。 IT・インターネット業界の転職支援領域における法人営業に従事。2016年10月より新規事業であるオープンイノベーションプラットフォームeiicon(現:AUBA)の立ち上げを行う。Consulting・Salesグループの責任者として従事し、 サービス企画、営業、マーケティング、イベント企画、経営管理などを幅広く担当。2019年6月より副業マッチングサービス「lotsful」をローンチ、代表を務める。

マーケットのスピード感に合った組織を作る

田中

本日は3つの議題を設けています。まずは新規事業を立ち上げるにあたっての組織づくりとはについて、お二人にお伺いしたいと思います。新規事業を立ち上げるにあたっては、既存事業の配下にする、会社内で既存事業から切り離した組織を作る、別会社にするなど、いくつかパターンがあると思います。北瀬さん、森谷さんはどのような考えで、組織作りを行っているのでしょうか。

北瀬氏

私はこれまでに複数のパターンで新規事業をスタートさせました。その中でも、BIRD INITIATIVEはNECの子会社ではなく、日本の競争力を高めたいという理想を掲げる複数社によるジョイントベンチャーです。新規事業の組織立ち上げにあたっては、自分たちの強みを活かしつつスピード感を持って取り組めるのなら、基本的には自分たちの手で組織作りを行えばいいと考えています。ただ、マーケットの変化スピードが速く、自分たちで行っていたら負けてしまうと判断したら、外に出す選択肢を取ります。外に出しっぱなしがいいのか、それともうまくいったら戻すのかという判断は個別に行います。

田中

北瀬さんは北米で、dotDataをNECのカーブアウトでスタートさせていらっしゃいますね。それは、社内の事業としてやるにはスピードが出ないと判断されたからですか?

北瀬氏

はい。dotDataをカーブアウトさせた当時、AIマーケットは変化のスピードがとても速く、「設立3年でトップグループに入っていないと生き残れない」と言われていたのですが、トップはほとんど北米企業が占めていました。そこで、「グローバルで闘える日本発のAI企業を作ろう」という意思決定をしてから、北米で投資してくれる人を探しに行き、資金調達の可能性を確認してから、社長にカーブアウトの相談を持ちかけました。その際は、『上申』ではなく、純粋に事業を成功させるために、「難しいことは承知しているが、チャレンジしたいので助けて欲しい」と、『相談』を持ちかけました。前例がないところで承認を得るのは難しいことですが、相談ベースで巻き込んでいくというこの成功体験がBIRD INITIATIVEの立ち上げでも生きており、6社を約半年でまとめあげるというスピードを実現できました。新規事業の失敗・成功の肝は、「船出」の段階での組織づくりにあると感じますね。

田中

事業の特性によって立ち上げ方を変えるということですね。森谷さんはいかがでしょうか?

森谷氏

新規事業は何が当たるかわからないので、マーケットにいち早くサービスをリリースするという考えを持っています。早くリリースするためには、迅速な意思決定が必要です。そのために、初期メンバーの人数は最小限でいいと思っています。これは単純に、意思決定プロセスを早くするために人数を減らせばいいという話ではなく、チームをスリム化し、同時になるべく早い段階で新規事業のコアメンバーが失敗経験を積めるような組織デザインを会社側が行うことが重要です。

田中

確かに。現場からすると、「新規事業に失敗はつきものだから失敗していいんだよ」といくら言われても、組織が大きく、積んでいる物が増えると実際には簡単にリスクはとれないですし、後に引けない状況に陥りがちですよね。

森谷氏

その通りです。新規事業を行うとなった途端、バックオフィスの構築、情報セキュリティや売上管理、採用などこれまで手がけたことのないさまざまな業務に携わります。そこで歩留まりが発生したり、失敗するのはむしろ健全で、経験は後々活きてきます。ただ、ここで重要なのは、何が起きても最後の最後には失敗をカバーするセーフティネットが用意されていることです。会社が失敗を想定した組織デザインを行い、少人数で一気にやらせる、ということが大事。ただ、日系大手企業では、それを実践するのが怖い、リスクがあると言う消極的な意見もまだまだ多いのですが。

北瀬氏

初期は人が多くなればなるほど失敗確率は上がる。本当に森谷さんのおっしゃる通りですよ。人数を増やせばいいというものではなく、フェーズごとに適切なチームビルディングがあります。初期段階ではさまざまなことが起こりますので、合議制で物事を進めていくのはほとんど不可能でしょう。

森谷氏

そうですね。経営層や、現場の新規事業チームの関係者から「意見がまとまらないんです。」という相談をよく受けますが、そんな訳ないんです。「失敗してもいいから、私はこれだと思う。これで進めよう」というリーダーシップを発揮できる人材が必要だと考えます。完璧な合意はないけど決めて進む、というサイクルを生み出す文化やマネジメント手法がすごく重要な気がします。

北瀬氏

責任者を一人決めるのが本当に大事です。新規事業がうまくいくか否かは、船出の段階でほぼ決まります。「なぜ新規事業をやるのか?」、「いつまでにどこまで何にこだわってやるのか?」。――このことをチームメンバー全員と共有することも欠かせません。また、不安を抱えているメンバーもいますので、一人ひとりをフォローする体制を築くことも重要だと言えますね。

新規事業向けの評価制度は必要不可欠

田中

人材の話が出てきたところで、次の議題である事業立ち上げに必要な人材・ノウハウとはに移ります。「社内に新規事業を立ち上げられる人材がいない」という話をよく聞きます。事業立ち上げにおける人材の問題について、北瀬さん、森谷さんはどのような解決策を取ってきたのでしょうか?

北瀬氏

やっぱり、新規事業開発は素人だけでは勝てません。「事業開発プロセスの専門家」と「ドメインの専門家」の両方が揃っていないと強い事業は作れない。少なくともどちらか一方は必要です。ドメインの強みはあるけど事業開発のプロがいないのか、事業の作り方はわかっているけれど狙っている領域が新しく専門家がいないのか、見極めながら組織立ち上げに必要な人材を探していくことになります。

田中

両方とも社内にいない場合は、どうしたらいいでしょうか?

北瀬氏

社内に適任者がいなければ、社外から探せばいいだけです。必ずしも社内の人材である必要はないですね。

田中

事業開発を行うのに必要なパーソナリティについて考えを聞かせてください。

北瀬氏

事業開発者には、①圧倒的な当事者意識、②変化への対応力、③心身・思考のタフさ、④発信力、⑤チャーミングさの5つのコンピテンシーを求めています。このうち、チャーミングさとは、自分をさらけ出すことで生じると考えています。日本人はこれを苦手とする国民性ですが、事業開発者には重要な要素だと見なしています。

田中

立ち上げのノウハウという面では、どのようなことが必要になりますか。

森谷氏

アセットやプロセスの専門知識などを、会社側がサポート・提供することが必要になります。その上で、新規事業のチームにどんなスキルが欠けていてどの部分を伸ばしていけばいいのか。そこを見極めることが大事です。予算だけ渡しても、うまくいきません。

田中

新規事業のネタはどこから出てくることが多いでしょうか。

北瀬氏

既存事業から出てくることもあれば、研究や社会課題から企画が出てくることもあり、さまざまな形で新規事業は立ち上がります。どの組織にも感度の高い人は必ずいるので、新規事業のネタには困らないでしょう。ただ、感度の高い人がちゃんと評価される文化を作ることが大事です。

田中

確かに、新規事業は既存の評価制度では評価しづらい点が多々ありますよね。

北瀬氏

おっしゃる通りです。そのため、NECでは既存の評価制度とは別に新規事業向けの評価制度を整備しました。具体的には、初期の仮説検証が終わった後からはベンチャーキャピタルと同様にバリュエーションで評価し、事業が成熟し黒字化も実現できたら、他の事業と同じように売上・利益を主に評価します。

田中

大手企業だと、初年度から売上や利益で事業を評価しがちです。そうなると、目先の利益が取れるものばかりを狙ってしまいます。

北瀬氏

本当にそれがしたかったのか?という話になりますね。

森谷氏

評価の話はとても共感します。私も自社に対し、立ち上げ段階からPL評価するのはやめましょうと提案しました。予算をパスするだけではなく、アセットやプロセスサイドを管理する側が、各チームに足りないノウハウ・スキルを埋める手段を提供するなど、「どの部分を筋トレすればこの事業は伸びるよ」という示唆を構造的に得られる体制を構築することが大事。組織の中に、状況に応じて、流動的に選ベる選択肢が常に存在していることがポイントだと思いますね。

田中

ここで、人事の方から質問が来ています。「新規事業が育ちやすい組織カルチャーを作るにはどうしたらいいでしょうか?」。これに対して、北瀬さんのご意見をお聞かせください。

北瀬氏

経営層との連携を取ることですね。トップが変わらないと、組織のカルチャーはなかなか醸成されません。

田中

経営層を巻き込むコツのようなものはありますか?

北瀬氏

たとえば、コミュニケーションの仕方も一つのコツと言えます。dotDataのカーブアウトの承認をとりに行った時もそうでしたが、経営層に対して、「上申」という言葉を使わないようにして、「助けてください」という言い方をしていました。社員に助けを求められて、イヤだと思う社長はまずいないでしょう。

森谷氏

相手が何を求めているかを意識することも重要でしょう。経営層の好みを見抜くためにも、日頃どのくらい接点を持つかが、新規事業を成し遂げるための一丁目一番地くらいに大切と言えます。

北瀬氏

 あとは、社内ルールを変革したいような局面では、「外からの爆弾」が意外と有効だったりします。マーケットを熟知する社外の方に入っていただいて、「まだこんなことされてるんですか?外ではもうこれが常識ですよ」という風に、客観的に事実を経営層に伝えていただくだけで、想定よりもあっさりと物事が前に進むこともある。そういう人材活用のノウハウもありますね。

お客様の声を聞くことがモチベーションにつながる

田中

それでは最後の議題、『事業開発を加速させる組織マネジメントとは』に入ります。関連する質問が寄せられていますので、紹介したいと思います。「メンバーの熱量をキープするために工夫していることはありますか?」。

北瀬氏

チームメンバーは、上司が自分のことを理解してくれているという感覚を持つととても安心しますので、隔週ペースで1on1を行い、「今どんな変化が起こっているか。どこに向かっているか」などフラットな会話をしていますね。仮に不安を抱えていたら、しっかりと耳を傾けます。口に出すだけで不安は軽減されます。

森谷氏

熱量を保つには、お客様のところに足を運ぶのも有効だと思いますね。そもそもなぜ新規事業を始めたのか。――その原点は、社会課題を解決したい、お客様に貢献したいということのはずです。だったら、社内で議論するより、手がけている事業が人の役に立っているところを直接見るほうが効果的です。組織の中で仕事をしていると、なぜ新規事業を始めたのかという初期の頃の思いを忘れがちになりますので。

北瀬氏

「私がやりたいと思うからやっているんだ」という思いも、繰り返し伝えています。「やりたくないことはさせていない。こういうことが実現できたら楽しいじゃないか」と、自分自身が納得して今の事業を手がけていることを言葉にします。

田中

メンバー一人ひとりが、事業に対して納得感を持つことは重要ですね。特にスタート時は同じ方向に進めないメンバーが一人いるだけで、周囲に大きな影響を与えてしまいます。

北瀬氏

全員が同じパッションを持って事業を行うのは難しいかもしれませんが、少なくとも納得はしてほしいですね。新規事業に携わる理由は「ノウハウを身につけたい」、「前の事業に将来性が感じられない」など何でもかまわないと思います。

田中

「新規事業にはマインドチェンジが大切ですが、なかなか変化に加速をつけられません。どうしたらよいでしょうか?」という質問も寄せられています。

森谷氏

前提として、自分自身が変化を望んでいるのか確認することがまずは重要です。もし本当に望んでいるのなら、意識して行動を変え、習慣化します。この点ができていても変えられないとしたら、置かれている環境が自分にとって「軽い」と考えられます。強烈にわからない、使っている言語が違う、やったことがない、失敗する確率が圧倒的に高いという環境に身を置いたら、変わる・変わらないと言っている暇はありません。

北瀬氏

自分のことを考えると、変わりたくないという気持ちが強く出てしまいますが、相手のことを思うと変化します。普段の自分とは違う行動を取るはずです。

田中

なるほど。自分に気持ちを向け過ぎないことは大切ですね。ここまで、お二人の実体験をもとに、大手企業でイノベーションを加速させる為に重要な要素などを紹介いただきました。一つでも明日からの活動に活かしていただければ幸いです。

(編集・取材・文:眞田幸剛)

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