2020.10.15

「地方副業」の”リアル” 。人材会社×塩尻市の2拠点で実現する地域おこしの魅力とは?


副業人材の活用事例や働き方などを発信している「lotsful magazine」が今回注目したのは、地方副業を実践している横山暁一氏です。人材サービス会社であるパーソルキャリアの法人営業として働く横山氏は、副業で長野県塩尻市の商工会議所に所属し、「地域おこし協力隊」の一員として活躍しています。

人口減が進む中で、地方の過疎化や中小企業の人材不足は深刻な課題となっています。そんな現状を変えるため、横山氏は家族と共に塩尻市に移住。週の2日は本業のパーソルキャリア(名古屋勤務)、1日を副業の塩尻市、残りの2日を両方の業務に関わるというバランスで、働いています。

地元の中小企業に対して、ハイスペックなビジネスパーソンを副業人材としてマッチングさせるなど、地方が抱える課題を解決するプロジェクトを進めてきた横山氏。なぜ、自身も副業人材として地域活性化に力を注いでいるのでしょうか。そして、地方副業ならではの難しさや求められるスキル/マインドセットとは?――副業に挑戦したいビジネスパーソン、さらに副業制度を検討している企業が、「今最も知りたい」と思う情報をお伝えします。

■パーソルキャリア株式会社 横山暁一氏
1991年生まれ。大学卒業後、2014年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。新卒当時から、中部エリアの法人営業として企業の採用活動に深く関わる。2019年4月からは、副業で長野県塩尻市の「地域おこし協力隊」として塩尻商工会議所に所属。地元の中小企業に関する、採用課題の解決などに取り組む。現在は、NPO法人「MEGURU」の設立を準備中。

面白そうな「場」で、チャレンジしてみたかった

――横山さんは2019年4月から長野県塩尻市の「地域おこし協力隊」としてご活躍されています。なぜ、塩尻市だったのでしょうか。

横山氏 : 塩尻市には知り合いもいなかったのですが、妻が長野の出身だったり、自分自身研修で地方の活性化に携わったことをきっかけに、「家庭」「職場」に加えて「地域」というサードプレイスを持ちたいと考えていました。もしも自分が活動するなら、面白い人が集まっている場所でやりたいとは考えていたんです。
そうした中でたまたま塩尻市の活動の紹介記事を読み、市民、行政、民間の3者が協働して、ビジネスの力で地域課題を解決しようとしている動きを知りました。「ぜひここでチャレンジしてみたい!」と、塩尻市の活動に応募しました。それが2018年4月のことで、結婚式の前日だったんです(笑)。その後、約1年をかけて会社や家庭のことを調整して、2019年4月に塩尻市の「地域おこし協力隊」(※)としてジョインしました。

▲塩尻市の特産品であるブドウ。さまざまな種類のブドウが生産されている。

――「地域おこし協力隊」のミッションを教えてください。

横山氏 : 塩尻市役所と業務委託契約を結び、商工会議所に所属する形で業務を行っています。私のミッションは20代~40代の移住者や関係人口を促進させるとともに、地元の中小企業の人材不足を解消すること。

現状としては、塩尻市への移住者もそこまで多くなく、地元の中小企業もいきなり正社員を採用するほどの余裕があるわけではありません。そこで、「ハイクラスの副業人材を地元中小企業とマッチングさせる」、「一定の業務を障がい者に任せる」といった、プロジェクトごとに適切な人材を活用できるような仕組みづくりを行っています。地方が抱える人材の課題を、さまざまな角度から解決しようと取り組んでいます。

――本業である人材サービス会社・パーソルキャリアにて、約6年間法人営業を経験されています。活かせている経験はありますか。

横山氏 : 経営者や人事の方と関わりながら、企業の方向性や事業を理解して採用活動を支援してきた経験はとても役に立っています。地方は信頼関係で成り立っている部分が非常に大きいので、表面的でなく、しっかりと企業の内部まで理解した上で採用支援に取り組むような姿勢は、塩尻に来ても信頼される要素のひとつだと思っています。また、本業を続けているからこそ、自分単体だけでなく事業体の視点で、より大きなインパクトが出せる提案や取り組みができていると感じています。時には本業とコラボレーションすることもあります。

※「地域おこし協力隊」……人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を受け入れ、地域協力活動を行ってもらう制度。

人と前向きに付き合える人ほど、地方にマッチする

――副業を開始するまでに会社や家庭の調整で1年かかったということですが、やはり本業との両立は難しい部分がありますか?

横山氏 : 家族との時間を確保することについては、悩ましい問題ではありますね。家族と一緒に塩尻市に住んでいるため、私が塩尻からパーソルキャリアの名古屋拠点に通うという方法を採っていますが、妻に物理的な負担がかかる部分もあります。ただ、今はコロナの影響で名古屋への出勤もほとんどなく、リモートで仕事ができているので、そのあたりのことは解消されていますね。

地方の場合ですとリモートがまだ浸透していないため、オフラインでのやり取りが多くあります。塩尻市の商工会議所で働き始めて半年くらいは、お互いどこまで任せて、どこまでは自分たちでやるのか、線引きが難しかったですね。
「それ、早く言ってくれれば…」ということが結構ありました。まだまだアナログの文化も多いので、コミュニケーションや情報共有の仕方などは、最初に構築しておくと業務がスムーズに進むと思います。

――週の2日が本業のパーソルキャリア、1日が副業の塩尻市、残りの2日が両方の業務に関わるというバランスですが、労働時間は実際のところいかがでしょうか?

横山氏 : 市からは週15時間前後の勤務に抑えるように言われていますし、パーソルキャリアでも週30時間という時短勤務になっています。残業などを加えても、なんとか週の規定時間を越えないように調整はしています。

しかし、地方の場合、ちょっとした会合や地域の集まりがあるのでそういったイベントに誘われることもあります。そう考えると、どこからが仕事で、どこまでがプライベートかというのは分けるのが難しいですね。イベントに積極的に顔を出した方が、地域に溶け込みやすいですが、そういったことが苦手な人もいますから。その人の考え方次第だと思います。▲横山氏の考える地方副業のメリット/デメリット

――副業人材として、地方で活躍するためにはどんなスキルやマインドセットが必要だとお考えですか

横山氏 : 正直、何か特別なスキルがなくても大丈夫だと思っています。人材領域で6年ずっと法人営業をやってきた私でも、これまでの経験とは関係ない色々なことを任されていますからね。コミュニケーション能力や調整業務、オフィスソフトを使った資料作成など、基本的なビジネススキルがあれば大丈夫ですよ。

一方、地方では人間関係がとても重視されていますので、人との関わりを前向きにとらえることができる人の方がマッチすると思います。地元の中小企業の方に聞いても、コンサルタントのような専門知識を型に当てはめる方よりも、会話をしながらトライ&エラーで一緒に進んでくれる、パートナーになれるような人を求めている傾向があります。

 

「人」を通して、地域を活性化させていく

――塩尻市のように副業人材を上手く活用するために必要なことは?

横山氏 : 大きな成果を求めるためには、目先の成果に囚われすぎないことが大切だと思います。「地域おこし協力隊」は全国で約5000人いますが、そのほとんどが役所など自治体の雇用でフルタイム契約です。ミッションも移住と定住といったように、ガチガチに決まっている。そうすると、想定を超えた成果を手に入れにくくなります。

塩尻市のように「地域おこし協力隊」を、副業で募集している自治体は非常に少ないです。副業として人材を集めれば、通常の募集では応募しないような専門性を持った人がくる可能性もあります。ガチガチにミッションを固めるなら、自治体の中でやればいいわけですから。外部の人に任せるなら、ある程度の余白や遊びの部分があった方が成果につながっていくと思います。

――最後に、これからの活動予定をお聞かせください。

横山氏 : この1年半、会社の中で何かを生み出すところから、外に出てみて異なる分野・立場での経験を経て、”これから何をやっていきたいか”が見えてきた感覚があります。自分自身のキャリア観にもイノベーションが起きていると感じています。地方副業を経験して思ったことは、「地方で人材に関する課題解決に取り組んでいる人」が少ないということです。自治体は対応していますが、予算が出なければ存続ができません。議論を進めていっても、「これ誰がやるの」というケースが多いんですね。

そうした問題を解決するため、10月からNPO法人「MEGURU」を立ち上げて、自治体や地域の企業と組み、塩尻に特化して「地域の人事部」となる組織を強化していく予定です。これからは地方こそ、柔軟な働き方や人材活用の在り方が求められてきます。そういった新しい働き方を全面的にバックアップし、その土地にいる人の成長を、地域の循環につなげていきたい。より塩尻市という地域に入り込んで、「人材」という領域からこの地域を活性化させていきたいと思っています。

▲NPO法人「MEGURU」の構想

(編集・取材・文:眞田幸剛)