2020.10.15

社員の流出は恐れない?!スープストックトーキョーはなぜ複業を解禁したのか?


副業人材の活用事例などを発信している「lotsful magazine」が今回注目したのは、スープ専門店を展開するスープストックトーキョーが2018年4月にスタートさせた「ピボットワーク制度」です。

働き方改革関連法が施行される1年も前に休暇制度をアップデートさせた同社は、本社社員だけでなく店舗で働く社員も含め、年間休日休暇を120日間に設定。それと同時に、休日を学びや新たなスキルを身に付ける機会してほしいと考え、社外複業・グループ内複業を解禁するピボットワーク制度を導入しています。

そこで、制度づくりの中心メンバーである取締役副社長の江澤氏と、元・人事担当の花摘氏の2名にインタビューを実施。どのようにしてピボットワーク制度を作り上げていったのか?そして、社員がどのように制度を活用しつつ、副業(複業)で活躍しているのか?――副業制度の活用を検討している企業が、「今最も知りたい」と思う情報をお伝えします。

株式会社スープストックトーキョー 取締役副社長 江澤身和氏
2005年にアルバイトとして入社。社員登用後は複数店舗の店長を歴任。法人営業グループ異動後は、新規店舗立ち上げをけん引。2016年2月、株式会社スマイルズからスープストックトーキョー分社化に際し、取締役兼人材開発部部長に。2019年4月、現職に就任。

株式会社スマイルズ クリエイティブ本部 広報部 スープストックトーキョー 広報担当 花摘百江氏
2014年、新卒入社。Soup Stock Tokyoでの店舗勤務後、採用担当に異動。2016年2月、株式会社スープストックトーキョー分社後は、人材開発部にてブランドコミュニケーション部も兼任。
2019年4月、現職に就任。

株式会社スープストックトーキョー:食べるスープ専門店「Soup Stock Tokyo」など、飲食店・小売店の経営
設立年:2016年2月1日(株式会社スマイルズより分社)
社員数:社員173名 アルバイト約 1,213名(2019年6月現在)

社員が働き続けられるために、複業解禁を決めた

 ――2018年4月から社員の複業を認めるピボットワーク制度をスタートさせましたが、まずはその背景をお聞かせください。

江澤氏 : 同じタイミングで生活価値拡充休暇という制度もスタートさせたのですが、その制度と同時に複業を解禁したのには実は意味があるんです。飲食業は不規則な勤務体系であることが多く、カレンダー通りに休みが取りづらいのが常識となっていました。

私自身、2015年10月から人材開発部に配属となり、退職希望者とも話しをする機会があり、その中で「不規則な勤務時間や休めない日が続き、体力的に辛い」という意見もありました。その反面、退職希望者の多くは、お客様に商品を提供するという仕事に、やりがいを感じてくれていました。

仕事にやりがいを感じているのに、辞めてしまうのは非常に残念です。抜本的に会社の環境を変えないと離職者が増え、人員不足でさらに社員が休みにくくなるサイクルが起きる可能性もありました。それらを改善するために生活価値拡充休暇という制度を作り、有給以外に年間12日間の休日休暇を付与。月の公休を1日増やして9日間にして、年間休日休暇を120日するという社内改革を推進したんです。

▲本社勤務/店舗勤務に関わらず、年間120日の休日休暇が付与される生活価値拡充休暇。

この生活価値拡充休暇の制度づくりを進めていく中で、あることに気が付きました。当社の平均年齢は約30歳で、20代の社員が多く在籍しています。若手にとっても休みが増えることは嬉しいことなのですが、働くことや自身のスキルを磨くことにエネルギーが高い彼・彼女たちにただ休息を与えるだけでは、当社のメッセージとしては不十分なのではと思うようになりました。そこで、休みの時間を有意義に使ってもらえる制度をセットで作ろうと考え、複業を認めるピボットワーク制度を導入することにしたのです。

▲2018年4月、生活価値拡充休暇と同時にスタートしたピボットワーク制度。

――社員と話をする中で、「複業をやりたい」という意見はピボットワーク制度の導入前からあったのでしょうか。

江澤氏 : ありましたね。「休みが増えたらどうするか?」というヒアリングを行ったところ、他の場所でスキルを活かして働きたいという意見がありました。本日の取材に同席している広報担当の花摘は、ピボットワーク制度が始まる前から報酬をもらわずに社外でダンスの振り付けの仕事などをしていました。そういった複業予備軍や複業に取り組んでみたいと考えているメンバーは、一定数いましたね。

――ピボットワーク制度の開始は、国が主導する「働き方改革」が始まる1年も前のことです。その時期にこの制度を設けることに対して、社内からの反発はなかったのですか?

江澤氏 : 複業をすれば、社員が外に出てしまうという意見もありました。「人を集めなければならないのに、流出するような制度を作ってどうするのか!」と(笑)。2017年から新卒採用方法を、面接で学生が好きなことをプレゼンできるように変えたことにより、将来のビジョンを持って当社に入社する社員が多くなりました。学生のときから受注生産でランジェリーブランドを運営している社員や、劇団員やモデルとして仕事をしていたメンバーもいたんです。そんなメンバーがずっと輝いていくためにも、この制度が必要だと思いました。

また、当社ではアルバイトから正社員になる人が多いのですが、長く勤めていく中で当社の仕事しか知らないことに対して、ネガティブに考えてしまう時期が結構あるんです。「この会社しか知らないので、他を見るために辞める」という退職理由が多くなっていました。

しかし、転職後に活躍する人もいれば、中々うまくいかず当社に戻ってくる人もいる。転職には一定のリスクがあります。それなら辞めずに他の場所を見られる制度というのは、社員に他の選択肢を提案できると感じていました。だからこそ、反対意見があった中でも、制度をスタートさせることにしたのです。

 

本業と副業(複業)。両立するために必要なこと

――ピボットワーク制度を運用し始めてから、社員の方は具体的にどのような複業をしていますか?

江澤氏 : イラストレーターをしていたり、ファッション誌のWebコラムを書いている人もいます。また、将来サンドイッチ店を開業するために、休日にサンドイッチをケータリング販売し店舗運営を学んでいる人もいます。接客スキルの幅を広げるために、大手カフェチェーンで複業している社員もいますよ。

――同業での複業も可能なのでしょうか?

江澤氏 : そうですね。複業をするにあたり、NGな業界などはありません。複業をする上でのルールは、”ピボットワーク”という名前の通り、軸足は当社に置いてもらうこと。そして、当社のブランドを棄損するような行為はしないという、この2つだけです。

――花摘さんは今でもダンスの振り付けを行っているのですか。

花摘氏 : 現在はダンスの仕事からは離れていますが、2つの複業を通して2社とお付き合いがあり、ライターとしてのお仕事もしています。ピボットワーク制度がない時は「人事(当時)の私がルールにない複業で収入を得るのはよくない」と考え、振り付け業で報酬をもらっていませんでした。それでも、「報酬を得られるのであれば、やっぱり嬉しいな」とも思っていたのが正直なところです。
複業が解禁されてからは自分の好きな音楽レーベルの運営サポートに加え、老舗のアパレルメーカーから、新商品のストーリーを伝える冊子づくりを毎シーズン依頼されています。編集のお仕事は単発でお引き受けすることも。それらのアウトプットをご覧になった方から、最近新たな複業案件のお声がかかったりもしています。

――活動が多岐に渡りますが、本業との両立は?

花摘氏 : かなり厳しいですね(笑)。本業にコミットできないと「複業しているから」と言われてしまうかもしれないですし、それによってこの制度がなくなると、ほかの方の機会損失になってしまいます。ですので、本業を優先できるように、複業を行う際に結ぶ委託契約では「本業優先」という条件を理解してもらっています。オフの時間に複業の仕事をしている最中でも、当社の仕事が緊急で入ってきた場合は、本業の対応を優先します。

複業をする際には一個人の総労働時間が増えてしまうのも課題なので、業務コントロールが重要です。ただし、業務量が分かるようになるためには、実際に複業をやってみないと中々見えてこないので、ここは経験が必要になってきますね。

――複業をスムーズに行うには契約をしっかりと結びつつ、自身の業務をコントロールする必要があると。

花摘氏 : そうですね。後輩から複業について相談されることもあります。新規の案件に出会うきっかけが見つけづらい場合は、lotsfulさんのようなプラットフォームを使った方がいいと思いますが、その前に複業をやる覚悟や目的がどれだけあるかも重要です。さまざまな複業案件がある中で、取捨選択もしないと複業を進めるのは大変です。

先ほどお話に出た、イラストレーターをしている社員のメンターをしているのですが、「確定申告など自分でお金をもらうことは大変だよ」とか「契約書をきちんと結ぼう」いった話をよくしています(笑)。今後は、複業の相談を受け付けられるような窓口を設けて、複業のナレッジをためる工夫も必要になってくるでしょう。

▲「表現力採用」を行って尖りのある人材を迎えて入れているスープストックトーキョーでは、多様な人材が活躍中だ。

社員のキャリアのために、制度を加速させる

――ピボットワーク制度で課題を感じている部分はありますか。

江澤氏 : 制度ができたからといって、すぐに加速するわけではありません。複業をしている社員の声をオープンにして、制度に勢いをつけられる場がないのが現状の課題です。制度があっても使われなければ、「この会社しか知らないので」と辞めてしまう社員が結局は増えてしまいますからね。

花摘氏 : こうした制度をスタートする時に、社内でも難色が示されたこともありました。それでも人材開発部では、「“働き方開拓”として、一人ひとりの社員がキャリアを開拓する環境づくりが重要だ」と考えていました。たとえば、社員が複業で活躍しはじめたとしても、当社を「本業として頑張りたいと思える場所」として選び続けてもらわなくてはなりません。

この制度を始めるにあたって、江澤に「経営メンバーや人事として、この制度を始めるには、腹をくくらないといけない」と言われたのを今でも覚えています。社員は複業をやるために腹をくくり、人事はこれからも社員に選ばれる会社にしていくために腹をくくっているんです。それぞれの意思なくして成立しない制度なんです。

――複業の経験を本業で活かせている人など、具体例などあれば。

江澤氏 : イラストレーターとして働いている社員が、社内で従業員同士が賞賛を贈りあうツールのデザイン公募に手を挙げてくれて、それが採用されました。社内でもすごく好評なんです。毎年2月に、新生活を迎えるアルバイトに向けて卒業式を開くのですが、式の案内状のイラストもその社員が描いています。将来サンドイッチ店の開業を目指している社員に、社内行事のケータリングを任せたりもしていますよ。


▲社内公募で採用された「賞賛カード」のデザイン。

――最後に、将来的にピボットワーク制度をどのように発展させていくのかお聞かせください。

江澤氏 : 複業に取り組んでいる社員が徐々に増えてきましたので、社内で情報を発信して、複業に対するハードルを下げていく活動を進めていきます。ピボットワーク制度を加速させるためにも、社内にナレッジをためていきたいですね。また、複業を通して成長したメンバーからアイデアを募り、当社のブランド力がアップするようなことにも取り組んでいきたいと考えています。

(編集・取材・文:眞田幸剛)